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AIの意義、を考えよう 知っておきたい社会貢献のための最新研究!

AIのイメージ

昨今、社会、企業の取り組みでAI活用の勢いが衰えることはありません。私たちはますます便利になるサービス、効率化する生活・職場のなかでそのテクノロジーを享受しています。しかし、テクノロジーの進歩は研究者、有識者そして専門家の研究と実証の努力があってこそ、ということを思い出しながら生活している人はほとんどいないでしょう。

むしろ、バズワードとなったAIが都市伝説やSFのように語られ、人間の仕事を奪うのか?という議論があがったり、データ活用・セキュリティ問題を発端にAIと人権を対峙させた話題が世間を賑わせたりと、本来AIが与えてくれる恩恵、そして研究者たちが目指すものとはかけ離れた議論が目立つようになりました。(そもそもセキュリティ問題の原因に至っては、AI以前のデータガバナンスの問題であったりするのですが…)

そこで今回の記事では、世界をより良くするために進んでいるAI研究、活用法に注目してAIの意義を再考していきます。

2030年までの世界が目指すもの 「より良い社会」の定義とは?

研究者は日夜、AIをはじめとしたテクノロジーの活用と効果を裏付ける基礎研究に力を注いでいます。以前、ある若手人工知能研究者と話をしたときに「機械学習研究をより良い社会の実現のために役立てたい」とまっすぐな目で話されていたのが今でも印象に残っています。世間で騒がれているSF的議論は派生的にメディアが語るものであって、研究者はAI技術が社会に貢献すべくひたすら考えながら日々その力を開発に注いでいるのです。

高齢化、労働力減少、食糧問題、教育問題…日本が抱える問題だけでも数えきれないなか、いざ世界に目を向けるとどれほどの社会問題があるだろうと頭を抱えてしまいますよね。「より良い社会」のために使われるAIを考えるとき、まずは世界が抱える問題について理解しなければいけません。

2015年に国連開発計画 (UNDP) で定められた2030年までの世界で目指す17つの「持続可能な開発目標」(以下、SDGs) は、今後のテクノロジーの活用領域を考える一つの指針になります。

早速、その17個の開発目標を見てみましょう。

国連広報センターの画像

by国連広報センター

SDGsの理念は「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」だと言われています。この理念が示すように、SDGsは世界すべての人に共通する「普遍性」を示しています。

そしてもう一つ、大きな特徴は17個それぞれの目標が「不可分」であることです。例えば、人と国の不平等をなくすためには、質の高い教育の提供、すべての人に健康と福祉を手に入れること、そしてジェンダーの平等も欠かすことはできません。それぞれの目標の達成が他の分野の開発にもつながるのです。

SDGsは環境問題の文脈で引用されることが多いですが、テクノロジー活用にも当てはめることができます。具体的には電子情報技術産業協会(JEITA)の「SDGs・Society 5.0実現のための人工知能の社会実装に向けて」の提言によると、AIは社会問題の解決に貢献する手段であり、AIを人々の生活を豊かにするために使うべきと明言しています。さらにそれに伴って今後一層、AIに関する理解醸成や社会受容性向上が必要になるという見方を示しています。

研究者たちはまさにUNDPが目指す「より良い社会」の実現に向けて、高い視点、そして分野横断的な視点からAI研究を進めています。そして、私たちにはその適切な理解が求められているのです。

すべての人に届く価値をAIで 世界の最新研究事例から

AI研究者の中には自身の経験にもとづく強い思いから、よりよい社会の実現のための調査を進めている人が多くいます。ワシントン大学Tasker Centerのダイレクターを務めるAnat Caspi氏はAIサイエンスの修士号、生物工学博士号を持つ研究者です。

Anat Caspi氏の画像

Anat Caspi氏 by The Seattle Times

彼女は、AIによる機械学習を障がい者のアクセサビリティ向上のために活用するために研究を続けています。代表的な研究例として、AccessMapというオープンプラットフォームのマッピング技術を用いて、車イスを使う人や高齢者が移動しやすいようなデータを集め、AIによる分析を重ねています。この結果、DNAへの影響とアクセサビリティという観点から機械学習を活用し、OpenSidewalksというプロジェクトの立ち上げに成功しました。

同じく生物工学の研究者であった夫の突然死、娘の発語障害と車イスでの生活といった状況も彼女を研究に駆り立てる大きな理由だといいます。「公平、平等」という信念が彼女を支えているのです。

日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)の最高技術職、フェローである浅川智恵子氏は2019年、全米発明家殿堂(National Inventors Hall of Fame:NIHF)に選ばれました。自身が持つ視覚障がいという経験からIBM東京基礎研究所で視覚障害者支援のプロジェクトやアクセシビリティ実現のための研究を実施しています。視覚障がい者向けにインターネット利用を支援するためのウェブページ読み上げ技術「Home Page Reader(HPR)」が評価されての受賞となりました。ウェブページ上の複雑な構造の情報も音声化することによりアクセサビリティを向上させ、同技術で米国の特許も取得しています

2019年7月インド・マイクロソフト社はAI技術を障がいをもつ人のために活用していくと発表しています。同社が開発した「Seeing A」というアプリケーションは目が見えない人に、色や形、人の様子などを伝えるために活用できるとのこと。インド・マイクロソフト社CEOのMasheshwari氏はマルチセンシング、マルチデバイスそしてAI活用によってすべての人に拓かれた未来の可能性を示唆しました。

また、2019年8月に公開されたBBCニュースによるとGoogleがAIの画像認識技術を用いて手話を解析し「音声化」できるようになったとのこと。GoogleリサーチのエンジニアであるValentin Bazarevsky氏とFan Zhang氏は「手話によるコミュニケーションへの理解の向上により、人々の孤独感を減らすこと」を信念に掲げています。そして今後は音声から手話の画像を生成したり、顔の表情からコミュニケーションを補完するなどの発展を目指していると言います。

 

今回ご紹介したように、最先端のAI開発においては新しいテクノロジーを敵視するのではなく、いかに「より良い社会」を作れるかという観点からその活用をまっすぐに追い求めているのです。

近年、IoTセンサーや画像・音声認識技術、あるいはテキスト分析といったソフトウェアの発達、さらにはSRAMに代表される高性能メモリ、電子部品の高機能小型化などのハードウェアの開発によって、AIが貢献できる分野がますます広がっています。日本ではまだ事例が少ないですが、海外ではこのコンセプトを理解した政府と民間企業、研究施設が一体となって官民研究開発を進めている例も数多くみられます。

このような研究の成果で、これまで数値化しにくかった「動き」「考え方」「感覚」といったものがデータ化できる時代になった現在、テクノロジーが身近になる分、それを活用する人間のリテラシーが求められるようになるでしょう。素晴らしい技術はそれ自体では、より良い社会の実現に役立つとは言えません。その活用を研究する人間の強い思い、そして恩恵を受ける私たち人間の理解があってこそ、真の価値を発揮すると言えるでしょう。

恩恵を受ける私たちも、研究者たちが熱心に追い求めるAIの意義を見失うことなく社会のため未来のためにAIを理解し、上手くそのテクノロジーを活用していきたいものです。

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