もし、クイズ競技会でAI(人工知能)と人間が戦ったら、どっちが勝つのか気になりますよね。実は2017年12月、カリフォルニア州ロサンゼルスのロングビーチで開催されたクイズ競技会において、AI(人工知能)が人間のクイズ王に勝利し話題になりました。クイズ競技会の結果はAI(人工知能)が人間のクイズ王に対しダブルスコアで圧勝、というから驚きでしょう。しかも、このクイズ競技会に勝利したのは日本人が開発したAI(人工知能)なんです。
クイズ競技会にAI(人工知能)で参加した(株)Studio Ousia(東京都千代田区)は、2016年開催の同じクイズ競技会(第1回目)にも同社のAI(人工知能)で参加しましたが、その際には残念ながら人間のクイズ王に敗れています。今回の参戦により、見事前回のリベンジを果たすことができました。果たして、そのクイズ大会はどんな戦いが繰り広げられたのでしょうか。
ということで、今回はクイズ競技会におけるAI(人工知能)の活躍について確認しましょう。
今回、日本のAI(人工知能)が参戦したクイズ競技会とは
今回、日本のAI(人工知能)が参戦したのは、2017年で第31回目の開催となる機械学習系の主要国際会議である、NIPS2017(Neural Information Processing Systems)において行われたクイズ競技会です。
このクイズ競技会ではまず、AI(人工知能)同士の対戦が行われ、ここでStudio OusiaのAI(人工知能)が見事優勝し、人間との対戦権利を獲得しました。対戦相手はクイズ番組やクイズ競技会で数々の実績を誇るクイズ王6名による人間クイズ王チームです。
本クイズ競技会は早押しクイズで、以下のとおりAI(人工知能)にとってはかなり不利な対戦ルールとなっています。
- 人間クイズ王チーム:1つの問題に対し解答できるのは1人1回。1人が不正解でも他5名は1回つづ解答できる。
- AI(人工知能):1つの問題に対し解答できるのは1回のみ
早押しクイズなので、どの段階で正解できるかでポイントが異なります。問題文の早い段階で正解すると15ポイント、遅い段階なら10ポイントとなりますが、解答を間違えると5ポイント減点の上、解答の権利が人間クイズ王チームに移ることに加えて、問題文が最後まで読まれることになります。
相手に解答権を与えないよう解答の精度とスピード両方の見極めが必要という、AI(人工知能)としては、まさに失敗が許されないルールですよね。
AI(人工知能)が人間クイズ王チームに圧勝
クイズ競技会開始直後はAI(人工知能)が正解すると会場からは驚きの歓声が上がりますが、AI(人工知能)が圧倒的な強さを見せ始めると次第に歓声は苦笑いに変わり、そのうちAI(人工知能)が正解すると会場はシーンとなってしまい、逆に人間クイズ王チームが正解すると会場から歓声が上がるようになります。
結果は、AI(人工知能)の465ポイントに対し人間クイズ王チーム200ポイントと、AI(人工知能)の圧勝に終わります。出題数56問のうちAI(人工知能)が間違えたのはわずか2問のみで、敗北したクイズ王の1人は「狐につままれたようだ」とコメントしたようです。
それでは次に、今回のクイズ競技会に勝利したStudio OusiaのAI(人工知能)について確認しましょう。
Studio OusiaのAI(人工知能)について
Studio Ousiaは自然言語処理を得意としており、同社のAI(人工知能)質問応答システム「QA ENGINE」は千葉銀行、セブン銀行およびfreee(クラウド会計ソフト販売)などに提供されています。今回のクイズ競技会にはAI(人工知能)質問応答システム「QA ENGINE」の技術を活用しており、主な手法は以下の3点です。
Wikipediaのタイトルや説明文に含まれる単語について、他単語との「近さ」をあらかじめ評価しておきます。例えば、織田信長と豊臣秀吉と戦国時代などの単語はそれぞれ近いと評価してあるため、質問文に織田信長という単語が出てきた場合、織田信長と近い単語をまずは解答候補と捉え、その中から絞り込んでゆきます。
Wikipediaの各タイトルに対して事前に属性をタグ付けしておきます。例えば、モーツアルトであれば作曲家という属性をタグ付けします。属性が一致していない単語は質問文の早い段階で除去できるようにしました。
質問文と解答の候補となっているWikipediaの文章とを比較しどれだけ近いか「マッチ率」として数値化します。
質問文が読み進められるにつれて、AI(人工知能)が質問文に対する解答候補を複数提示し、それぞれに0~1の範囲で正答率を評価し、正答率が0.6以上になった時点で解答する仕組みとしました。
まとめ
以上、今回はクイズ競技会におけるAI(人工知能)の活躍について確認しました。
- 2017年開催の機械学習系の主要国際会議NIPS2017で行われた、早押しクイズ競技会において、日本企業であるStudio Ousiaが人間クイズ王チームに圧勝(465対200)。AI(人工知能)のあまりの強さに、会場は人間クイズ王チームを応援
- Studio Ousiaは本クイズ競技会に、同社の質問応答システムのAI(人工知能)技術を活用
- 単語同士の「近さ」を事前に評価することにより、質問文に含まれる単語と近い単語より解答を絞り込んでゆく
- 単語へ属性をタグ付けしておくことにより、属性が一致していない単語は質問文の早い段階で除去
- 質問文と解答の候補となっているWikipediaの文章とを比較しどれだけ近いか「マッチ率」として数値化
質問文が読み進められるにつれて解答候補と正答率を複数提示し正答率が0.6以上になった時点で解答
Studio Ousiaは2016年に開催された自然言語処理系の主要国際会議であるNAACL (North American Chapter of the Association for Computational Linguistics) において開催された、AI(人工知能)同士で対戦するクイズ競技会においても2位以下に大差をつけて優勝しています。
ちなみに、このNAACLで2位になったコロラド大学は、2015年にクイズ王Ken Jennings(2011年、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」においてIBM Watsonと対戦したクイズ王)と対戦し大差で勝利しています。
2011年のWatsonと人間との対戦映像によると、会場にはIBM関係者も多数参加しており、勝利が決まった瞬間IBM関係者は全員立ち上がり抱き合って歓喜、対戦相手の2人のクイズ王も拍手でWatsonの健闘を讃えます。当時の会場は間違いなくWatsonを応援してました。
今回のNIPS2017では、AI(人工知能)のあまりの強さに、Studio OusiaのCTO(最高技術責任者)である山田育矢さんは「会場がシーンとなってしまって、すごく居づらくて」と述べています。
AI(人工知能)は当時より極めて大きく進歩していることが分かりますよね。Studio Ousiaによるソフトウェアにおける格段の進歩はもちろんのこと、ハードウェアについて比較すると、当時のWatsonの「大型冷蔵庫10台分のスペースに2,880個のプロセッサーと15テラバイトのメモリー」という特注仕様から、今回はGPUを使用しているものの現在の一般的なサーバー仕様で充分であることを考えると、ハードウェアの面でも極めて大きな進歩があったことが分かります。
AI(人工知能)がクイズにおいてもアルファ碁のように、人類が到底及ばないレベルに到達してしまう日も近いかもしれません。