日本のものづくり経済を支えていると言っても過言ではない「産業用ロボット」。この業界の技術発展は凄まじく、ロボットは「人の代わり」だけでなく「人には出来ないこと」までしてくれるようになっています。しかし「産業用ロボット」って言われても「テレビで見たことがあるから、知ってはいるけど実際には見たことがないなぁ」っていう人が大半ではないでしょうか。
ましてやどのような種類があるかなんて、工場や工業系の企業に勤めてでもいない限り、知ることもないし興味を持つこともないって言うのが本音ですよね。実際、私も
へぇ~、人の代わりに24時間働いてくれるんだ。助かるよねぇ
ってぐらいにしか思っていませんでした。
かれこれ15年ほど前のことですが、当時の仕事の関係で大阪で開催されていた工業技術展示会に足を運ぶ機会がありました。勤めていた会社は工業とは全く関係はなく、たまたま取引のあったお客様が出展されているので、ご挨拶がてらに伺っただけだったので、展示会の内容には残念ながらまったく興味もありませんでした。
しかし、その会場に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、忙しそうに動いている大きなロボットアームで、ちょうどデモストレーションを行っていたらしくブースの前には人だかりが出来ており、私も何故か惹きつけられるように見入ってしまいました。
そのロボットアームは大きな腕?を右や左、上に上げてみたりぐるっと捻ってみたりと止まることなく忙しく動いていたのですが、なんかその姿が可愛くも見えてきて、すっかり魅了されてしまいました。これが私と産業用ロボットとの出会いです。
日常ではなかなか出会うことがない産業用ロボットですが、実際に見てみるとかなり面白い!ペッパーくんなどのヒト型のロボットとは違い、片腕しかないものが大半で決して見た目に愛着を持てるものではないのですが、寸分狂わぬ複雑な動きでひたすら作業をこなしていく姿は、なんか健気さもあり、かっこよさもあり。
あっ今、「え~、そんなん別に興味ないしぃ」って思ったでしょ。でも私がロボットアームを見て感動したのが15年前、きっと今はAI(人工知能)が搭載されて、頭脳を持った産業用ロボットが開発されているはず。絶対以前よりもかっこいい!?産業用ロボットが活躍しているはずです。
なので今回は産業用ロボットの「今」を調べてみることにします。「興味ないしぃ」って思った方も、きっとこの記事を読み終わる頃には「わぁーめっちゃ動いているとこ見たいわぁ」って思うようになっていますよ!?
では、それに期待して一緒に楽しく見ていきましょう!!
産業用ロボット界のエース!ロボットアームの種類
まず産業用ロボットと言われて思い浮かべる風景は、自動車の組み立てなどを行っている工場で、部品の運搬や溶接などを行っている片腕の大きなロボットアームではないでしょうか。この風景ってなんかテレビのコマーシャルとかで見たことありますよね。何台も並んで設置されていて、ラインで流れてきた部品を、それぞれが違う動きで組み立てていく様子は、まさにザ・オートメーションファクトリーって感じで圧巻です。
私が展示会で魅了された大きなロボットアームも、まさに自動車工場で働いているような片腕のマシンで、複雑な動きも複数ある関節を器用に曲げながら繰り返していたのが印象的です。
このロボットアームは形状によって数種類に分類され、加工をするものによって使い分けるのが一般的です。ロボット本体の形状によって動ける動作が決まっていますが、その範囲の中でどのような動きをさせるかはロボットを制御するプログラムによって決まってきます。まさに人間の身体と脳の役割ですよね。
その肝心なロボットアームの形状で代表的なものは、垂直多関節ロボット、スカラロボット、パラレルリンクロボット、直交ロボットの4種類があり、複雑な動きができるほど価格も高くなるようです。(大きいものだと数千万?億?)でも○○ロボットって言われても、聞き慣れない言葉ばかりでどのような動きをするのか想像しにくいですよね。なので簡単にちょっと説明をしますね。
<垂直多関節ロボット>
人間の肩や肘、手首のような関節があり、まさに人間の腕のような複雑な動きをするロボットです。私が展示会で見たロボットもこれに分類されます。
ロボットは「軸」と呼ばれる人間の関節の役割をするものがあり、この軸の数が多いほど動きの幅が広がるので複雑な動きをすることができます。この「垂直多関節ロボット」は「軸」が4~6軸あり、かなり複雑な動きをすることができます。まさに産業用ロボットの代表格と行っても過言ではなさそうです。
<スカラロボット>
なに??って感じの名前ですよね。聞き慣れないこの「スカラ」って言葉は、Selective Compliance Assembly Robot Armの頭文字をとって「SCARA」と呼ばれています。日本語にすると「選択的柔軟性組み立てロボットアーム」となるそうですが、それでももひとつよくわかりません。
このスカラロボット、垂直多関節ロボットに比べると軸の数も4軸が一般的で、水平方向にスライドする動作と、垂直方向の作業しか行うことが出来ません。あっ、だから「選択的」なんですね!動きが限定されている分、垂直方向の力に強いので、部品を押し込んで組み立てる作業に適しています。また水平方向へスムーズにスライドできる動きから「柔軟性」という言葉が用いられているようですね。
<パラレルリンクロボット>
パラレル?スキーのターン?もっと理解できない言葉が出てきました、、、こちらのロボットは2本セットのアーム(腕になる部分ですね)を3対または4対にして、先端に吸着ユニットなどをセットして使用します。パラレル=平行って意味ですが、この「2本セットのアーム」が並行にセットされていることが名前の由来なんでしょうね。
このパラレルリンクロボットはラインで流れてくる軽量な部品を高速でピックアップするのに活躍します。そういえばベルトコンベアで流れてくる部品の中から不具合のある部品をピックアップしているUFOキャッチャーのようなロボットって見たことありませんか。まさにあれですね。
<直交ロボット>
はい。名前からはまったくわかりません。直角に組み合わせた直線軸(十字に組み合わさる感じですね)からなるロボットだそうですが、動作する方向にセットされた軸に沿って作業するアームがスライドして動くシンプルなロボットです。軸とアームが「直角に交差」するから「直交」なんでしょうね。(わかりにくい、、、)
作業台の上で左右にスライドして部品をセットしたりする小さめのものから、工場の天井にセットされ大型の製品を釣り上げて移動したりと、運搬を行うのに適したロボットです。
「ロボットアーム」ってひとくくりに表現してしまいましたが、いろいろな形・役割があるんですね。確かに特化した動きのほうが、扱いやすいし動作も早い、そしてなにより価格も安くつきますしね。複雑な動きができる「垂直多関節ロボット」だけが産業用ロボットのイメージでしたが、ちょっと勉強になりました。
さぁ次は実際に活躍しているロボットアームを見ていきましょう。
美しすぎる!自動車工場で働く産業用ロボットたちに感動
産業用ロボットは1体で働くことよりも、製造ラインに数台~数十台並べて、それぞれが違う役割で働いていることが多いですが、数十台並んだ光景を実際に目にするチャンスはなかなかありませんよね。展示会で見た1台でかなり迫力があったのに、それが並んでいるなんてきっと凄い光景でしょうね。
実際に動いている姿を見れないかなぁと思い、インターネットで「産業用ロボット 工場 動画」ってキーワードで探してみると、結構あるんですね!さすがネット社会。様々な企業が自社製品のPRのために、実際に工場で活躍している産業用ロボットの姿をYoutubeにアップしていました。国内外問わず多くの企業が、様々な工場では働く産業用ロボットを紹介していたのですが、その中でもまさに「圧巻!」の一言な動画を見つけてしまいました!
その動画で紹介されているのは、スペインの「セアト」というフォルクスワーゲンの傘下にある自動車メーカーの工場で、2000台近くの産業用ロボットが自動車の組み立てを行っています。2000台ってすごくありません??もちろん、このロボットを監視しチェックするのは人間ですが、実際の組み立て作業はほぼ全てロボットが行っているんです。
ロボットが寸分狂わぬ動きで自分に与えられた役割をこなし、次の工程で待ち受けている別のロボットに渡す、この均等のとれた動作をひたすら繰り返している姿は、ある意味芸術的でもあります。
大げさ何じゃない!?って思うかも知れませんが、ぜひこの動画を見て下さい。ロボット好きじゃなくてもこの迫力、興味を持つこと間違いなし!
ねっ!圧巻でしょ。自動車工場は扱っている部品も大きく、工場の規模も桁違いなので、導入されている産業用ロボットも半端なく多い。日本のメーカーでも生産ラインの動画を公開していますが、どちらかというと工程の説明が多く、セアトほどの迫力はありませんでした。これはムービーの編集の仕方の違いですね。チャンスがあれば実際に見学してみたいものですよね(私だけ??)。
侍もびっくり!産業用ロボットが居合の達人に!
pngtree.comのグラフィックス
実際に工場で働く姿も感動的ですが、ちょっと違う切り口で産業用ロボットの凄さを実感できる動画を見つけました!
この動画を公開しているのは北九州市にある株式会社安川電機というメカトロニクス製品の製造を行っているメーカーで、産業用ロボットの開発、製造、販売も行っています。
この安川電機、大正に創業した老舗で、創立100周年の記念に「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」を開催。今回見つけた動画はそのプロジェクトの一環で、居合術家・町井勲氏の剣技を自社製品の産業用ロボット「MOTOMAN-MH24」が忠実に再現するという、なかなか興味深い取り組みです。
言葉で説明をするよりも、動画を見ていただいた方が早いですよね。刀でさやえんどうを縦に真っ二つに斬る姿はなかなか圧巻です。まずは騙されたと思って動画を見て下さい!
ねっすごくないですか!!ここまで忠実に、そして俊敏に動けるんですね。実際に産業用ロボットが刀を振り回すことはないでしょうが、日本の伝統と最新技術が融合した素晴らしい取り組み。これが人型ロボットだったら、、、なんて想像するとちょっと楽しいですよね。
えっ、楽しいのは私だけ??
AIと産業用ロボットのコラボから生まれた「弁当盛り付けロボット」
ここまでは、ガシガシと働く産業用ロボットを紹介しましたが、次はAI(人工知能)が搭載されることで、ただ決められた動作を繰り返すのではなく、考え認識して働くロボットを紹介したいと思います。
私が展示会で産業用ロボットと出会った時は、まだAI(人工知能)の開発が進んでいなかったので、「考える」というよりは「正確に動く」ことをロボットに求めていました。しかしAI(人工知能)の技術が発達した現代では、ただ動くだけでなくロボットが「考え」「認識する」ことが出来るようになっています。
これらのAI(人工知能)搭載型ロボットはまさに現代の産業用ロボットと言えるでしょう!
なんて大層な言い回しで紹介しましたが、今回取り上げるAI(人工知能)搭載型ロボットはお弁当のおかずを盛り付けしてくれる「人工知能搭載弁当盛り付けロボット」です。
お弁当の盛り付けって、、、
なんでAI(人工知能)を搭載してまで”お弁当の盛り付け”なの??って疑問に感じますよね。第一「AI(人工知能)搭載」って聞けば何でもできるようなイメージを持ってしまいますが、実はお弁当のおかずのように「不定形でバラ積みされたもの」を認識するのってAI(人工知能)にとっては難しいことだったんです。
しかし、この度AI(人工知能)が「不定形でバラ積みされたもの」を認識することができるようになったことで、この「弁当盛り付けロボット」を開発することができたんです。簡単なことじゃなかったんですねぇ。
じゃ実際にどのような働きをしてくれるのか見てみようではありませんか!
組み立て工場で働く産業用ロボットは、忙しそうに動いていましたが、こちらはお弁当という繊細なものを扱っているせいかちょっとゆっくりした動き。おかずをそっと優しく置く姿、なんだか考えながら詰めているようで可愛く見えてきました。「今まで出来なかったことが出来るようになったんだねぇ」と温かい目で見てあげてください!?
この「弁当盛り付けロボット」はDENSOが開発を行ない、FOOMA JAPAN 2018に出展され話題を集めました。これ以外にもDENSOは塩を測ったり、餃子の具を詰めて皮で包むロボットの開発も行っています。
DENSO以外にも「弁当盛り付けロボット」の開発を行っている会社が他にもありました。株式会社 アールティというAIとロボットの開発を行っている東京の会社で、このロボット以外にも様々なヒト型ロボットの開発を行ってきています。
このアールティが開発した「弁当盛り付けロボット」は「協働型サービスロボット」と総称され、人と協働で働くことを目的として開発されています。
このロボット、ちょっと動きが特徴的でなかなかコケティッシュなんです。ぱっと見はすごく奇妙なんですが、じっと見ているとなんか可愛く見えてくるんですよねぇ。こちらも動画がありましたので、ぜひご覧ください!
ねっ、なんか可愛くありませんか?私は結構好きかも、、、
このロボット、人の形をしているのでなんか宇宙人みたいで奇妙ですが、カマキリのような気合の入った構えはちょっと笑えますよね。こんなロボットと一緒に働けたら単純な作業も楽しいかもしれませんね。次の目標は最難関の「卵焼きの盛り付け」だそうですが、ぜひ頑張ってほしいものです。
研究者の救世主となるか!実験ロボット「まほろ」の登場
これまでは工場でガシガシと働くロボットを紹介しましたが、こちらはちょっと毛色が変わって研究現場で人のサポートをしてくれるロボットです。
研究現場で働くといえば、やっぱり頭がいい一流大学を出た研究員の方々がスポイドやビーカーと使って日々難しい実験に取り組んでいるイメージがありますが、意外と地味な作業が多いってことご存知でしたか。
研究生活の8~9割は地味な単純作業に追われているのが現実だそうで、これではせっかくの研究者の技術や知能が活かされません。また細菌や微生物の培養など、危険な作業もあり、意外と過酷な仕事なようです。
勝手に超エリートの集団が、白衣を着て難しい論文を読みながら難しい顔をして顕微鏡とにらめっこしているイメージを持っていましたが、そうは行かないようですね。やっぱり地味で時間がかかる作業はどのような仕事にもつきものなようです。
でも私たち一般人と違って研究の現場で働く人達は、難しい専門の勉強をしてきて日本の未来を、いや人類の未来を切り開くことが出来るはず。だからそんな人達が能力とは直接関係がない業務で時間を取られているなんてもったいない!!そんな業務なら私が代わりにやってあげるのに!!
なんて言ってもさすがに誰でもいいわけではないようで、代わりにそのような状況を打開するためのロボットが開発されていました。
その救世主なるロボットはAI(人工知能)搭載のヒト型実験ロボット「まほろ」といいロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社が開発した、研究のサポートをするためのロボットで、研究員の方々が行うような細かい作業を完璧にこなすことができます。実はたまたまなんですが、実際に「まほろ」が働いている姿を見る機会がありました。
私が住んでいる神戸に理化学研究所があるのですが、こちらの施設では年に1回、施設の一般公開をしています。その時にこのAI(人工知能)搭載のヒト型ロボット「まほろ」が実験器具を使って研究のための準備作業を淡々とこなしていました。工場で働いているロボットと比べると、ゆっくりと丁寧に機器を扱い、本当に淡々と作業を進めている姿が印象的で、二本の腕を人間の腕のように使いながら器用に細かい作業をこなしていました。
そうです!STAP細胞で一躍有名になったあの施設です。
このような単純作業を「まほろ」が代わりに行ってくれることで、研究員の方々が本来の研究に時間を費やすことが出来るだけでなく、人が行うよりもより正確により確実に出来るので、実験の精度も上がるそうです。これは一挙両得ですよね。理化学研究所で見学をした際に、この真面目に地味な作業を繰り返す「まほろ」をじっと見ていると、なんだか研究員の一員に見えてきました。
こちらの「まほろ」が動いている姿は開発したロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社のホームページでも公開されていますので、ぜひ器用に細かい作業をこなす姿を見てあげてください。
pngtree.comのグラフィックス
さて今回は日常生活にあまり馴染みのない産業用ロボットについて紹介をしましたが、一緒に厳選した動画も観ていただけたでしょうか。
私が展示会で衝撃を受けたロボットアームがスペインの自動車工場で働く姿、本当に「圧巻」ですよね。またこの動画、見せ方がうまい!ついつい動きが大きな垂直多関節ロボットのロボットアームに目が行ってしまいますが、部品を抑えたり運んだりする小さなロボットたちもいい仕事してますよね!赤い大きなスイッチを押すことで始まるロボットたちのダンス、ぜひ実際に見てみたいものです。
居合を実現する「MOTOMAN-MH24」、ロボットに居合をさせようって発想、本当に面白い!精密な動きを実現させることが出来るって自信があるから取り組めたプロジェクトなんでしょうね。本当にロボット技術って進化しているなぁって実感ができる動画でしたね。
この居合とは対照的に、カマキリのような構えでちょっと考えながら唐揚げを選んでお弁当に詰めるヒト型ロボット、こちらはコケティッシュな感じがしてちょっと笑えましたよね。
最後に紹介した研究現場の縁の下の力持ち「まほろ」。世界の医療技術の未来のためにも、世界中の研究の現場で活躍してほしいものです。
私が興味を持ってからかれこれ15年ほどの年月が経っていましたが、産業用のロボットアームについては大きな変化は感じませんでいたが、細かい作業が出来るヒト型ロボットの開発が進んでいることにびっくりしました。以前は人がこなすには重労働だったり複雑だったりという作業のサポートをロボットが行っているイメージがありましたが、今回調べてみて人がすることと同じことが出来るロボットの開発が進んでいるように感じました。これはこれからの社会で想定される労働力不足を補うためなんでしょうね。
これからAI(人工知能)の開発が進むにつれて、ロボット産業も活発になっていくことは間違いないと思います。ロボット好き?の私にとってはこれからもっと進化したロボットが開発されていくと思うとワクワクしてすごく楽しみです。
今回、私が厳選したロボットたちを見て、「え~ロボットなんて興味ないしぃ」って思っていた方が、少しでも「えっちょっと楽しいんちゃうん」って共感してくれたらうれしいです!