AIコンピュータが普及したら暮らしはどう変わるの?人間が仕事を取られるってホント?…と、なんとなーくAIに対して嫌な気持ちを持つことってありますよね。今ある仕事の半分はAIがこなすようになり、人間は不要になるとまで言われていますし…。
そんな中、町のパン屋が積極的にAI搭載のコンピュータを取り入れて、大改革したことが大きな話題となっています。パン屋といえば、職人が活躍するワザの世界なので、AIは遠そうなイメージなのにどこにどういう具合に導入されているんでしょうか?…気になりますよね。
今回は、世界初のAI搭載コンピュータを導入したパン屋のすごいシステムと、その開発秘話をお伝えします。この画期的なシステムは、兵庫県にある小さな開発メーカーの技術者たちが試行錯誤を重ねて作り上げたものなんです!
ではさっそく日本の精鋭技術者たちが、世の中の「当たり前」を変えていく過程を深掘りしていきましょう。
世界初!画像認識でパンの値段が1秒で表示される
たまたま町で見かけたパン屋…お試しに入ってみてトレイに良さげなパンを5個ほど載せてレジへ…。するとわずか1秒でパンの合計金額表示!なんと今どきのパン屋は、AIコンピュータがパンの画像を一瞬で認識してレジ業務をサポートしてくれるのです!
パン屋で働く人がパンの種類と値段を覚えなくていいなんて…!!
思い起こせば学生時代…パン屋でバイトしてみたいと思ったことがあります。すでにバイトしている友だちに聞くと、毎日余ったパンをもらえるという素晴らしいメリットがあり、その一点のみで心惹かれたものです…が、パンの種類の多さを見て即挫折。
それ以来、パン屋のレジでテキパキと値段を打っていく人を見ては、その記憶力のすごさに密かに脱帽していたものです。パンが100種類ほどもあるパン屋は珍しくありませんし、その形と値段をすべて覚えているなんて…ある種の超人としか思えません。
ポケモンを愛する人が知らず知らずのうちにポケモンの名前を覚えてしまうのと同じくらいに、パンへの愛情があるからこそ、パンの名前も覚えられて働けるんだなーと勝手に納得したりして…。私にはそれほどの情熱はないので、憧れはあってもパン屋は手の届かない遠い世界でした。
しかし、今「パン屋のバイト、ハードル高すぎる説」は終わりを告げようとしているのです!このシステムは「BakeryScan(ベーカリースキャン)」という名で、開発したのは、ブレインという日本の会社。世界初のすごい技術が日本発なんて…「ニッポン!スゴ~イデスネ!」ですよね。
この会社、本社は兵庫県の西脇市にあるのですが、この辺りは自然豊かでとってものどかな田舎です。近くのへそ公園に行ったことのある私から見ると、あんなに静かな場所で社員20人ほどの小さな会社が世界初の製品を開発したというところにも、胸を打たれてしまいます。
でもいくらAIコンピュータでもパンの微妙な違いを見分けるのって、すごく難しいんじゃない?たいした特徴があるわけでもないし…
といったわけで、開発の経緯を見てみましょう。
開発のきっかけと苦労したこと
パンの合計金額が1秒で表示されるというこの画期的なシステム「ベーカリースキャン」が生まれたきっかけは、地元のパン屋から「人手不足なので経験が少ない人でもレジ打ちや接客ができるようなシステムを作って欲しい」と相談を受けたことでした。
今や人手不足は日本全国に共通の悩みですが、特にパン屋は次のような点で、経験者でないと働くのが難しいという特別な事情があります。
- 焼きたてパンにはバーコードなどを付けられないので、パンの種類と値段を覚えなければならない
- 見た目が似ているパンがたくさんあり、見分けがつきにくい
- 同じパンでも焼き加減や形の違いで、違うパンに見えてしまう
そこで開発チームは、画像認識について詳しい兵庫県立大学の研究室と共同研究を始めますが、なかなかパンの画像がスムーズに認識できませんでした。それでも諦めることなく、実用化までに立ちはだかった大きな3つの点を越えることができたのです。では、その困った点と解決策を見ていきましょう。
困った①パンを見分けられない!
違う種類なのによく似ているパン
Credit: 株式会社ブレイン
同じ種類なのに違って見えるパン
Credit: 株式会社ブレイン
この似て非なる2つの課題を解決するために、いくつものパンデータを登録して正しいデータを学ばせようとしましたが、データの読み取りや処理に時間がかかるなど実用には至りませんでした。
そして数々の失敗を乗り越えた結果、スッキリ解決した方法は「そのパンの特徴をいくつか覚えさせる」というシンプルなものでした。この方法ですと、具材の量や焼き具合など、簡単に特徴を登録するだけなので、新製品が出ても2分程度で準備できます。
パンの認識時に「このパンで合っているかちょっと自信がない」とAIコンピュータが判断した時には枠が黄色で表示されるので、人間が正解を教えてあげれば認識精度はどんどん上がっていきます。人間がAIコンピュータを指導して育てている、という感覚でしょうか。
困った②パンの輪郭を認識できない!
それから天気や照明が違うと影の付き方が変わるためにパンの輪郭が正確に認識できないという問題もありましたが、これは読み取りスキャナの下からライトを当てて影を消してしまうことでサラッと解決できました。
道の駅にあったパン屋さんが想像をはるかに超えてハイテクで、画像認識でお会計だった pic.twitter.com/WFI6SnV591
— いもす (@imos) April 8, 2017
2つの困った点を解決して、ベーカリースキャンは無事に販売されました。しかし販売開始から約1年経った頃に、新たな問題が発生しました。
困った③2つのくっついたパンを1つと認識してしまう!
ベーカリースキャンは、お客さんがトレイに載せたパンをスキャナがそのまま読み取るわけですが、その時にくっついたパン2つを1つと認識してしまうケースが発生してしまいました。
仕方なく店員はくっついたパンを離して読み取り直していたのですが、それを見たお客さんが「自分が口に入れるパンを何度も触るな!」と怒りだしたわけなんです。たしかに自分が食べるものを他人に触られるのは、気分がいいものではありませんよね。
お客さんはパンの読み取りのことは気にしませんから「トレイにパンを置く時に、ちょっと間隔を空けてくださいね〜」なんてお願いをするわけにもいきません。そこで開発チームはパンの読み取り精度をさらに上げることを考えて研究を進めたのですが、数回に一度はくっついたパンが1つと読み取れてしまいます…。
これは困った…何かいいアイデアはないか…と考えている時に、ブレイン社の社長が意外な提案をしました。「コンピュータが間違えた時は人間がデータを修正すればいいんじゃないか」と。その結果、タッチパネル上でくっついているパンを、人間が離してデータ修正できるシステムが誕生したのです!
ベーカリースキャンは、何もないところから開発を進めて約6年で販売がスタートして、その1年後にはお客さんの「困った」にも対応して、より進化したシステムになりました。お客さんの声に真摯に耳を傾けた結果の勝利と言えますよね。
画像認識の活用法アレコレ
画像認識技術とAIコンピュータ、それと開発チームの努力のおかげで、パン屋のレジ業務が超効率化されましたが、この技術って他にも利用できそうですよね。そこで、この画像認識システムを使ったブレイン社の他の活用法もチェックしてみましょう。
食べ物の画像でカロリー計算!
Credit: 株式会社ブレイン
これはトレイに乗せた食事の写真から一瞬でカロリーと栄養素を表示してくれる「食事メニューの選別」です。好きなおかずをトレイにのせていくようなお店に導入されれば、値段とカロリーと栄養素が一瞬で表示される時代が来そうですよね。
薬の画像で種類を見分ける!
Credit: 株式会社ブレイン
表面に書かれている小さな文字やカプセルの形から、よく似ている薬を見分けてくれる「薬剤識別システム」もあります。人間が薬を選ぶときのうっかりミスをなくしてくれそうです。薬のような、命に関わることは人間とコンピュータが二重にチェックできると安心ですよね。
浮世絵の中に何人いるか数える!
最後に、この画像認識システムがNHKワールドの番組「Dive Into Ukiyo-e」で使われた時の話を見てみましょう。この番組は英語落語で海外の人に向けて浮世絵を紹介しようというものですが、ブレイン社の技術協力によりAIコンピュータのすごさがわかるネタが放送されました。
さて、この浮世絵の中に人は何人いるでしょうか?
このようなフツーの人間には到底できそうにないことを、AIコンピュータは楽々こなしてしまうのです!英語落語を聞きに集まった大勢の観客が見守る中、AIコンピュータは浮世絵の人数をなんとたった1分程度で数え終わりました。
※数えた結果は記事の最後に公開しています。
同じ技術を使った「食べ物画像でカロリー表示」もいいよね!やっぱりカロリーって気になるし、伊達ちゃんの「ゼロカロリー理論*」が笑えるのも、普段我々がカロリーに呪縛されてるからだしねーw
アメトーーク出演時に、サンドイッチマン伊達が示した理論。どんなに高カロリーな食べ物でも「○○だからゼロカロリー!」=いくら食べても太らない、と主張するネタ。例えば「カステラはギュッと潰せば小さくなるからゼロカロリー!」というように使う。他にも「カロリーは真ん中に集まるからドーナツはゼロカロリー!」などがある。MONKEY MAJIKとコラボしたゼロカロリー理論の曲「ウマーベラス」
まとめ
さて今回は、パン屋のレジ業務が「ベーカリースキャン」を搭載したAIコンピュータで大改革されたお話をお伝えしました。どんな内容だったかふり返ってみましょう。
- 画像認識システムにより、パンの値段が1秒で表示できる
- 世界初の製品を開発したのは、のどかな田舎にある社員20名ほどの小さな会社
- パン屋から人手不足の悩みを相談されたことで開発スタート
- パンを見分けられない、パンの輪郭を認識できない、2つのパンを1つと数えてしまう、という3つの問題もアイデアで解決
- ゼロから開発を始めて約6年で製品化、その後改良されてより実用的になった
- 画像認識システムで、食事メニューや薬を一瞬で見分けることもできる
- 画像認識の技術で、浮世絵の人数をカウントした
町のパン屋の声がきっかけで、こんなにも画期的な製品が開発されたなんて…。今やベーカリースキャンは、日本のテレビや新聞はもちろんのこと、イギリスBBC放送でも放映されるなど、軽々と海を超えて世界の人々の度肝を抜いています。
AIコンピュータが描き出す未来が、いよいよわかりやすい形で我々の前に登場してきました。AIは、人間のサポートをすべく…面倒なことから解放すべく…そしてきっと…我々を幸せにすべく!!…密かに働きだしているのかもしれませんね。
※浮世絵の人数は、2,332人でした。