「不登校」「登校拒否」という言葉は、一昔前までは特別な響きを持ち、学年に1人そういう子がいるらしい…という噂程度の認識だったかもしれませんが、いまや学校に行かない生徒はさほど珍しくもない存在となりました。
それもそのはず、令和元年秋の文部科学省発表のデータによると、不登校の小中学生は全国で約16万人以上もいて、2013年度より6年連続で増加しています。これはすべての小中学生のうち1.7%にあたる数なので、100人いれば2人くらいは学校に来ない子がいるのは当たり前なんですよね。※高校生も入れると約22万人
文部科学省の調査では「不登校児童生徒」とは「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的理由による者を除いたもの」と定義しています。
ところで日本では、不登校(登校拒否)=いじめ、という図式が成立することが多く、「不登校」という言葉を聞くとネガティブなイメージが付きまとうものですが、多様な学び方の先進国であるアメリカでは、なんと「不登校」という言葉自体が存在しないのです!
アメリカでは、学校に行かずに家庭で学ぶことを「ホームスクーリング」と言い、全米では100万~200万人もの生徒が大学に入るまでにこのシステムで教育を受けています。しかもホームスクーリングは、全米50州で認められている合法的なシステムなので、日本の「不登校」のような後ろめたいイメージもなく、家庭の事情に合わせて気軽に選ぶことができるのです。
今回は、この新しい学びの形「ホームスクーリング」について、アメリカの状況を踏まえながら、日本との違い、メリットとデメリット、日本の教育問題などをお伝えしていきます。
アメリカはホームスクーリング先進国
まずはホームスクーリング先進国であるアメリカの状況を見てみましょう。アメリカは広い国土を持つので学校が遠すぎることや、宗教的な背景からも「子どもは家庭で教育するもの」という考え方が古くからありました。
それに加えて、ここ数年公立学校が非常に荒れていて「まともに教育できる環境ではない」との危機感から、教育熱心な親が率先して家庭での教育を推進したという経緯があります。裕福な家庭や高学歴な親ほど「悪影響のある学校を避けて」子どもをホームスクーリングで教育するという状況はこうして生まれました。
日本と違ってアメリカは、個人主義と合理性を重んじる国なので、「ホームスクーリングの方が便利だし学習効果が高い」と判断すれば、周りの目をあまり気にすることもなくホームスクーリングでの学習に切り替えます。
また一度ホームスクーリングにしてからでも、子どもの気持ちや家庭の事情に合わせて「今年はホームスクーリングで、来年は学校に通わせる」とか「長女は学校教育が合っているから通学させて、長男はホームスクーリングで学習」なんてことも自由なんです。
ホームスクーリングの種類
ホームスクーリングにはさまざまな種類があり、次々に新しい形が生まれているので、これが正解というものはないのですが、ここでは一例をご紹介します。
①ホームスクーリング(スクールアットホーム)
子どもの個性を見ながら、学習カリキュラムを親が決め、親が先生となって教育する。年相応以上に学習する分野もあれば、遅れて学習する分野もあり、子どもに合わせた内容で無理なく進めることが特徴。ホームスクーリングはこの形がベースとなって発展した。
②アンスクーリング(ハックスクーリング)
学習カリキュラムはなく、子ども自身にやりたいことを決めさせ、興味のあることは時間の制限なくさせる。子どもの個性を最も重視している。楽器を極めるもよし、料理を極めるもよし。子どもたちは自分の一日を好きなことに使える。
子どもがネットで好きな学習を選んですることを、ハックスクーリングと呼ぶこともある。これは13歳のローガン・ラプラントさんがTEDで発表したオリジナルの学習法で、健康で幸せになるために自分で学習内容を自由に選ぶやり方。
③エクレクティックスクーリング
ホームスクーリングとアンスクーリングの中間に位置している方法。家庭で親が教えながら、子どもも自分のやりたいことを自由にする。
④アンブレラスクーリング
ホームスクーリングをしている家庭のコミュニティ。みんなで学習カリキュラムを考えて共有したり、集まって一緒に活動したりすることもある。
アメリカではアンブレラスクーリングに参加すると、義務教育の学習過程として正式に認められる場合もある。学習カリキュラムや教材が学校から指定されていることも。
ホームスクーラーの光と影
ホームスクーリングで学ぶ子どもを「ホームスクーラー」と呼びますが、この子どもたちの能力は、公立学校に通う平均的な子どもよりも学力、思考力、集中力などさまざまな面で優れているという研究結果が出ています。
しかしその反面、「ホームスクーリングしているから」と学校に通わせてもらえずに、親にネグレクトされているだけの不幸な子どもたちも存在します。ホームスクーリングでは、親と子どもの関わりがとても深いので、親の覚悟と意識次第で、子どもの未来が変わってしまうとも言えるでしょう。
ホームスクーリングのメリットとデメリット
ではここで、ホームスクーリングのメリットとデメリットをできるだけたくさん考えてみましょう。同じようなことを言っている部分もありますが、ニュアンスの違いを伝えるためあえて挙げておきますね~。
メリット
まずはメリットから見ていきましょう。
- 荒れた環境や嫌な人間関係を避けて、落ち着いて勉強できる
- 犯罪、いじめ、悪影響などを避けられる(自殺を防ぐこともある)
- 自分のペースで勉強できる(理解の早い子はどんどん先に進め、遅い子はわかるまでじっくり学べる)
- レベルの低い授業を受けなくて済む
- できなかったらどうしようなどと、人目を気にする必要がない
- 病気、アレルギー、対人恐怖症などの問題があっても、勉強できる
- 通学時間や余分な時間を削除できるので、自由時間が多くとれる
- 好きなことを極めて、個性や能力を伸ばせる
- 音楽、芸術、スポーツなど得意なことにおもいきり打ち込める
- タレントやプロの選手は、仕事と勉強を両立できる
- 親は自分の教育方針を子どもに直接伝えられる
- 子どもを細かく見てカリキュラムを決められる
- 旅行など気軽に行けるので実体験から学べる
- 親子で長時間一緒に過ごせる
デメリット
次にデメリットを見ていきましょう。
- 社会性を学べない、同年代との交流がなくなる
- 人の意見を聞く機会が減るため、多様な価値観を学べない
- 強制力がないため、自己管理能力が必要になる
- 人と違うという不安がつきまとう
- お金や手間が余分にかかる
- 公立学校に行かなくても、その分の税金は返ってこない
- 親が大変な思いをする(生活リズムや勉強の管理)
- 親がつきっきりになることが多いので、共働き夫婦にはできない
- 子どもと一緒に過ごす時間が長いので、親は自分の時間や仕事を持つのが難しい
- 親がカリキュラムを考えて先生になる場合、重い責任を感じる
- 時間的金銭的に、子どものために親が犠牲になることが多い
- 虐待やネグレクトを疑われることがある
- 学校以外にもコミュニティを持つなどして、親が子どもの社会性を育てる努力がいる
- 子どもの教育と将来について、親には相当な覚悟が必要である
- 親子で過ごす時間が長いので、親子関係が悪化しないように注意がいる
親の苦労がハンパないってこと!
大きな覚悟が必要ってこと!
日本の義務教育は世界的にも珍しいシステム
ある日突然、お子さんが「学校に行きたくない」と言い出したら、親は理由を聞いて原因を取り除こうと努力して…とりあえず学校に行かせようとしますよね。行きたくない理由は、本人の気分など些細なこともあれば、何度学校に掛け合っても一向に改善しないような深刻なこともあり…。
明日、お子さんが学校に行けるかどうかはこの時点ではわかりません。
そして、どうやら事は思っていたよりずっと深刻でなかなか学校に行けそうにないと気づいた時、親は焦ります。「我慢することも大切」とか「そんなことたいした問題じゃない」とか…なだめたりすかしたり…しまいには怒ったり泣き落としたり…。
つまり…
「学校に行かない」ことはオオゴトなのです、ここ日本では。
なぜなら…
「学校での学び以外に選択肢がない」からなのです、ここ日本では。
そしてなぜだか…
「小中学校に全然行かなくても卒業できる」のです、ここ日本では。
WHY JAPANESE PEOPLE!?
古いギャグを大声で叫びたいほどの…
圧倒的閉塞感!!絶望感!!!
学校に行けないのはいいんです(いや、良くないけど)。たとえ周りに問題が大アリで、お子さんには何の落ち度もなかったとしても、なんとなく学校に向いてないから行きたくない、だったとしても。理由はさまざまなので、それはこの際いったん保留しておきましょう。
ここで気にしなきゃならない大きな問題は日本の義務教育システムに「選択肢がない」という部分です!「義務教育は学校で!」しか選択肢が用意されてないって…。
昭和かよっ!?
このIT時代にAI時代に…まさかの…
ここだけ昭和かよっ!?
しかもね、学習内容が理解できていなくても、授業もテストも全く受けていなくても、小中学校の卒業証書はちゃんと授与されますからね。私たちは日本で育っているので、それが当たり前となっていますが、これって世界的には超絶レアで、ありえないシステムなんですよー!
義務教育の落第経験率ランキング
では、日本の義務教育が超絶レアである証拠を見ていきましょう。
このグラフから各国の小学校での落第経験率をザッと見ていきましょう。
フランス 16.40%、アメリカ 10.23%、ドイツ 9.97%。ポルトガルなんか24.46%もの小学生が落第しちゃってます!つまりクラスの約1/4が同じ学年をくり返すということ。
一方、わが国日本は、0.00%。もちろんダントツの最下位!落第ナシのおめでたシステ〜ム!
これはどういった状態かと言いますと、日本では学年ごとの学習内容が身についていなくても、とりあえず進級できてしまうってことで…。「落第して年下と机並べてもう一年はかわいそう」という日本人らしい「みんな一緒って気持ちいいね~」という配慮から生まれたものでしょう。
それに対して、フランスやアメリカは「わからないままで(形だけ)進級させるのはかわいそう」という真逆の発想なんです。できなければ落第させるのが当然なので、日本のような「落第しちゃったから人生オワタ…」みたいな悲壮感もありません。
日本人の特性である「みんな同じでみんなハッピー」という画一的な価値観が「フツーに学校に通えない」子どもをより追い詰めているんじゃないでしょうか。果たしてフツーってそんなに尊いものなのでしょうか…?「不登校だから人生オワタ…」なはずはありませんよね。
世界的に見て日本の義務教育がガラパゴス化している現在の状況が、「フツーじゃない」不登校の深刻さを加速しているような気がします。ITだAIだ、教育改革だというのなら、まずこういった部分から進化させてくれタノム!
学校行っても勉強できるような状況じゃなかったら…子どもがどうしても学校行けないって言うんなら…「だったら家で勉強すりゃいいじゃん!」って気軽に言ってあげたい…。選択肢が一つしかない義務教育はもう終了でいいと思います。
ホームスクーリングのシステムが確立されている社会なら、学校に行けないことを「死ぬか生きるか問題と同等に扱う」ほど深刻に考えるなんてことはなくなるはずです。
そうだよ。ガラケーは便利な独自進化だからいいけど、ガラキョーは融通きかなくて不便なだけ…
未来に必要な力と日本の教育問題
日本とアメリカのホームスクーリングの状況がわかってきたところで、これから未来に向かう子どもたちに必要な能力について考えてみましょう。
学校は勉強をすると同時に、さまざまな人間と触れ合って経験値を高める場所でもあります。生きること=我慢を重ねること、という大人の意見もあるでしょう。その意味では、社会で生きるための忍耐力をつける場所として、学校は最適な場所であるという気がしないでもありません。
それらの意見も踏まえた上で、こんな意見もあるということをご紹介していきます。
学校は「サラリーマン養成所」
NHKにもよく出演されている有名ブロガーのイケダハヤトさんは、2人のお子さんを持つお父さんでもありますが、日本の教育に警鐘を鳴らして「新しい教育の形」を模索されています。
うちも3歳と0歳のこどもがいますが、リアルな感覚として「学校に通わせなくてもいいや」と思ってるんですよ。別に通いたければ通えばいいんですが、無理して通うほどのものではないな、と。
普通の学校なんて、揶揄とかではなく「サラリーマン養成所」ですからね。毎日学校に行って、与えられた授業を受けて、教師のいうことを聞いて、周囲との和を大切にして……というのは、サラリーマンそのままじゃないですか。
これからの時代、言われたことだけやっていてもダメなんです。
byイケダハヤト
自分で課題を設定して行動しなければならない
世界的な起業家であり投資家でもある孫泰蔵さん(Mistletoe代表取締役社長兼CEO)は、現代の社会と未来について次のように考えています。
私は 、起業家として長年にわたってIT分野の変化をみてきましたが、私の想像を超えるよりも遥かに速いスピードで、AI(人工知能)やロボット技術が発達していると感じます。
テクノロジーが緩やかに発達していくのであれば、人々もそれに適応して徐々に新しい仕事にシフトしていくことができますが、あまりにも急激なスピードで技術革新が起こると、AIに取って代わられる仕事が瞬時に増大し、経済学でいうところの「摩擦的失業」が起こると想定されます。
私はそれに危機感を抱いており、速やかに全ての人々が「人間にしかできないクリエイティブな仕事」にシフトできるような教育にアップデートしなければ、この状況を打開できないと考えています。
しかしながら、現在の学力テストは、正しい知識を正しくアウトプットすることが判断基準となっています。これだけでは、全く意味がないと思います。自分で課題を設定して、行動していかなければいけない時代になっていると思います。
by孫泰蔵
イケダさんと孫さんは全く違う場所で発言しているのですが、同じような結論に行き着いています。
- これからの時代は、今の学校の教育法は通用しない
- 言われたことだけやっていても意味がない
- 課題を自分で見つけてやっていく
日本は子どもへの投資をしない国
日野田直彦さん (元大阪府立箕面高等学校 校長)のご意見も、耳が痛い話です。
(日本の教育改革について)なによりハード面、教育投資ですね。例えば、生徒から言われて気づいたのですが、学校のすぐそばにある特別養護老人ホームは新築なのに、築55年の学校は20年先までと言われます。社会保障費が30兆円に対して、教育費は5兆円です。未来のある子どもたちへの投資をしない国に未来はあるのでしょうか?
そもそも論としてハードへの投資が少なすぎます。我が校の年間経費は約2,000万円しかありません。光熱費が1,500万円。建物が古いので補修費で約300万円はかかります。教材費は、1教科10万円しかありません。校長の手元に残るお金はたったの数万円です。それで教育改革しろというのは悪い冗談かと思いますね。(笑)
by日野田直彦
数万円で教育改革って…これはたしかに…
ムリゲーw
ホームスクーリング、アリじゃね?
まとめ
今回は、ホームスクーリングについて学びながら、日本の教育問題についてもお伝えしました。ここでザッとふり返ってみましょう。
- アメリカはホームスクーリング先進国である
- ホームスクーリングにはさまざまな種類がある
- ホームスクーラーは優秀な子が多いが、中にはネグレクト児童もいる
- ホームスクリーニングにはたくさんのメリットがある
- ホームスクーリングの一番のデメリットは「親が大変」ということ
- 日本の義務教育は世界的にも珍しいシステム
- 学校は「サラリーマン養成所」である
- 自分で課題を設定して行動しなければならない時代が来ている
- 日本は子どもへの投資をしない国である
こうして見ていくと、「義務教育の場所が学校しかない」日本という国がとても不自由に思えてきます。学校が絶対的に正しい場所ならそれもアリかと思いますが、現実は「いじめ問題を解決するはずの教師同士に激しいいじめがある」という、笑えない世の中になっていますから。
ところで、子どもが親と同じ職業に就くことってけっこう多い気がしますよね。警察官の子どもが警察官になることって多いですし…会社員の子どもは会社員、職人の子どもは職人、タレントの子どもはタレント、医者の子どもは医者、というように。
たとえば会社員をしている親が、自分と同じような安定した人生を歩ませるために、同じ教育を子どもにしてあげたとします。そうして子どもが大きくなった時、その職業は世の中にまだありますか…?AI(人工知能)がどんどん人間の仕事を奪っている先が見えない未来に、今までと同じ教育法ははたして通用するのでしょうか…?
ここにいち早く気づいた人たちが、危機感を持つのは当然ですよね。気づいたら次は行動起こさなきゃ〜!子どもたちの未来のために、大人がちょっと本気出してみるのも、かっこいいんじゃないかな~と思います!たまには本気出さないと出し方忘れちゃうし!w
なにはともあれ…明るい未来、プリーズ!
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今回の記事が私のAIZINEでのラスト記事となります。よくもまぁ、こんなに自由でふざけた真面目な文章を、最後まで読んでくださったものだと感謝しております。本当にありがとうございました。またいつかどこかでお会いしましょう~☆
byそえ ( ^_^)/~~~