人工知能(AI)がさまざまな生活の場面に顔を出すようになっていますよね。日常の暮らしやネットの情報ツール、職場で人工知能(AI)が導入されていくにつれ、ベーシックインカムに関する議論が盛んになってきています。しかし、この二つは、どうつながっているのでしょうか。
ベーシックインカムは経済的格差の解消のために行う社会福祉政策のひとつ。昨今の世界的経済格差の拡大を懸念する立場から、この制度の検討を求める声が聞かれるようになっています。
一方で人工知能(AI)などの技術の発達による社会の変化は、仕事のあり方を変え、経済・産業の構造を変え、職場で求められるスキルや知識を変えていきます。この変化の波は人と仕事の関係や、ひいては働くことの価値そのものを変えてしまうかもしれません。急激な変化が予想される時代に、どのように対処するべきでしょうか。
そこで、今回は人工知能(AI)による仕事の環境の変化とベーシックインカムについてお伝えしましょう。
ベーシックインカムとは
まず、ベーシックインカムについてお話しましょう。
ベーシックインカムは16世紀の思想家、トマス・モアの著書『ユートピア』に書かれているアイデアで、全ての人は最低限の収入を保証されるべきだとするもの。この考えはその後の社会保障の考え方の中で最低所得という考えを補強する流れに繋がっていきます。ベーシックインカム自体は所得の再分配という社会保障制度の一つとして、歴史上幾度も取り上げられており、実際に何度か導入を検討されているのです。
無条件ベーシックインカム以外に、受給条件をつけて成人に限るものや収入の上限を設定するものなどがあり、制度の構造はさまざま。現在、
社会制度としてのベーシックインカムと人工知能(AI)
世界的な所得格差の拡大や、産業の発達による雇用の不安から、ベーシックインカムによる所得の確保を求める声が聞かれるようになっていますよね。職場の機械化が進み、今後は人工知能(AI)やロボットの導入が職場の環境を大きく変化させることが予測されることも、このような不安を生み出している一因でしょう。
一方で、
日本の現在の人口は約1億2千万人。一人当たり年間100万円のベーシックインカムを支給するには毎年120兆円が必要です。人工知能(AI)に関連する産業から得られる利益でこの額をカバーすることは到底できません。
実際にベーシックインカムのような制度が導入されているのは、その地域の政府に特別な事情がある場合です。
多くは天然資源の採掘からの利益を住民に還元するケース。
フィンランドでは
新しい技術による職業をとりまく変化
20世紀のアメリカの思想家、リチャード・バックミンスター・フラーは、技術の進歩により同じだけの製品やサービスを生み出すのに必要な時間や資源が次第に少なくて済むようになることを指摘し、これをエフェメラリゼーションと名づけました。
20年前に世界一のカメラのフィルムメーカーとして知られていたコダック(Kodak)。
新しい技術の誕生は、それまでに存在していた仕事の一部を代替してその職に付く人を失業させてしまうことがあります。極端な場合、その仕事そのものがなくなってしまいます。
ATMは銀行の窓口業務を機械化したため、窓口の出入金業務で働いていた人たちの仕事は不要になりました。銀行の一店舗当たりの人員は削減され、これにより銀行業務はコストを削減。結果として銀行はより多くの支店を開設し、銀行全体で働く人は増加しました。
カメラの出荷台数は2008年がピークで、世界で約1億2千万台が販売されました。
現在、スマートフォンの台数は年間15億台に迫っています。写真にかかるコストが実質的にゼロになったため、写真を使うことに関する制限が無くなって、ハードウェアに対する需要は10倍以上に爆発的に拡大。
カメラという機械はその必要性を失いましたが、画像を使うソフトウェアとサービスの市場はそれ以上に大きくなっていますよね。
ホワイトハウスの報告によれば、2010年時点で自給20ドル以下の仕事が将来機械に置き換えることができる確率は83%だそうです。単純に考えれば年収36,000ドル(400万円)以下の仕事のほとんどはいつの日か機械でもできるようになると言われています。
このような報告は人工知能(AI)やロボットを脅威として、ベーシックインカムの議論を活発にする材料になっていますっていくでしょう。
マッキンゼー社の調査によれば、
この流れが、職業に対して求められるスキルを変えるでしょう。このスキル・シフトは仕事をする人にとって極めて重要なことですが、同時に人工知能(AI)を導入していく企業にとっても死活問題となります。
いかにして、この必要なスキルをもった人材を集めるのか。テクノロジーを扱う企業は、必要な人材を自ら作り出すための投資が必須です。
これまで存在した仕事は別の形になって、新しいスキルセットの中であらためて作り出されます。アメリカの未来学者、アルビン・トフラーによれば「21世紀において文盲であるとは、読み書きができない者ではなく、学び、忘れ、また学ぶことができない者」なのです。
日本の社会保障費のうち、文教費の額は5兆円ほど。これは日本の民間企業の総売上の0.3%に過ぎません。教育投資を通して企業は自社にとっての潜在人材の層を広げ、社会の発達を促すと同時に、学んだテクノロジーを活かして職業につく人材をプールし、収入を得る機会を準備する。
これがなされないと、次の時代の中期的な発展は実現できません。
教育・再教育を通して仕事を作り出し、収入と消費を生み出すサイクル。人工知能(AI)はベーシックインカムを超える社会的な価値の創出を行う力を持っているでしょう。