ここ数年で急速な進化を遂げているAI(人工知能)は医療でも活用されはじめ、医療分野に入るリハビリ(リハビリテーション)*1でもAI(人工知能)を活用した姿勢推定に注目が集まっていますよね。
実際に医療では患者さんの病状やレントゲン写真などの医療画像から、高い精度の診断結果を出せるAI(人工知能)が開発され現場で活用されはじめており、将来的に医療分野においてAI(人工知能)の活躍が期待されています。
そしてAI(人工知能)への期待はリハビリでも同じです。
そして今後はもっと高齢化率が高くなるのは間違いありません。
つまりそれはこれから介護が必要になる高齢者も増加していくということでもあり、病気やケガによるリハビリだけでなく介護が必要な高齢者のリハビリと介護予防の需要も増えていくということなのです。
そのため高まる高齢者のリハビリニーズにともない、リハビリ専門の理学療法士や作業療法士などの人材供給が求められており、それと同じように姿勢推定にも期待がよせられています。
ではなぜリハビリで姿勢推定が期待されているのでしょうか。
そこでAI(人工知能)を活用している姿勢推定がどのような仕組みで、現在のリハビリではどのように利用されているのか、また今後の展望についてもお伝えします。
*1 リハビリ(リハビリテーション) リハビリテーションは医学的リハビリテーション、職業リハビリテーション、社会リハビリテーション、教育リハビリテーション、リハビリテーション工学の5つの分野に分けらますが、ここでは医学的リハビリテーションの歩行や姿勢に関する身体の機能訓練を指して紹介しています。
姿勢推定とは
姿勢推定は「姿勢検知」や「⾻格検出」、「⾻格推定」などとも呼ばれいるため一般に姿勢推定はなじみが薄いのでイメージが湧きにくい方が多いのではないでしょうか。しかしその文字から「姿勢の状態」に関する技術であり、リハビリにもつながっていくことがなんとなく予想できますよね。
テレビ番組で人間の身体にピンポン球のようなモノをつけて、その人物をカメラで撮影しているシーンをご覧になったことがないでしょうか。それはモーションキャプチャという技術です。
つまりモーションキャプチャでは多方向からの撮影した映像が必要なのですが、姿勢推定は単方向の撮影だけでいいのです。また姿勢推定は単方向から映像だけでなく画像からも写っている人物の姿勢を分析することができ、写ってる人物が複数でもそれぞれの動きや姿勢を分析できます。
では両者を比べてリハビリに活用するならどちらがいいでしょうか。
モーションキャプチャで考えてみると複数台のカメラが必要になるのでそれなりの場所の確保と、身体にマーカーを装着しなければならないことを考えてみても簡単には実施できません。
その点姿勢推定は1台のカメラで人物を撮影するだけでモーションキャプチャのように大がかりに行う必要はなくリハビリへの活用には最適といえるでしょう。
そして姿勢推定のコンパクトさと複雑な映像や画像の分析を可能にしているのがAI(人工知能)なのです。
姿勢推定でのAI(⼈⼯知能)の役割とは
姿勢推定とモーションキャプチャを比較すると、大がかりに行うモーションキャプチャに対してコンパクトに行える姿勢推定。そしてこの両者の差を生んでいるのが姿勢推定に応用されているディープラーニング(深層学習)です。
現在AI(⼈⼯知能)は急速な進化を遂げており、それを牽引しているのがディープラーニング。
これまでの機械学習ではAI(⼈⼯知能)に学習させたい知識の特徴量*2は人間が決めていました。
しかしディープラーニングではモデルと呼ばれるAI(⼈⼯知能)の頭脳に人間の脳の仕組みをマネしているニューラルネットを用いることで特徴量をAI(⼈⼯知能)自身で捉えられるようになり、それがAI(⼈⼯知能)を進化させたのです。
従来の機械学習とディープラーニングの違い
AI(⼈⼯知能)に「赤リンゴ」と「青リンゴ」の画像を識別させるためには「赤」と「青」の色の特徴量を学習させることでAI(⼈⼯知能)は「赤リンゴ」と「青リンゴ」を識別できるようになります。
すでにこの時点で先ほどのリンゴの識別に比べると複雑な問題であることが分かりますよね。またこの問題をAI(⼈⼯知能)に識別させるためには特徴量が重要なポイントになっていることも分かります。
つまりディープラーニングがAI(⼈⼯知能)に「特徴量をAI(⼈⼯知能)が決める = 画像識別の学習できている = 精度の高い画像識別ができる」という法則が実現し「ネコとライオンの子供の画像識別」という従来の機械学習では難しかった問題も高い識別精度でクリアできるようになったのです。
そしてAI(⼈⼯知能)の性能を高めたディープラーニングは姿勢推定でも大きな役割を担っています。
では実際にどのような手法で姿勢推定が行われているのでしょうか。
*2 特徴量 AI(⼈⼯知能)に学習させたい知識の特徴を数値化して表したもの。
*3 訓練データ AI(⼈⼯知能)が画像識別のような問題を解決するために必要な知識を得るための学習用のデータ。
主なAI(⼈⼯知能)姿勢推定技術
私たち人間が映像や画像に写っている人物の姿勢を推定するなら、まず人物を探し出して姿勢推定を行う手法をとるでしょう。
では実際に姿勢推定にはどのような手法があるのでしょうか。
姿勢推定技術を大きく分けるとボトムアップ型とトップダウン型の2つに分類されます。そしてこの分類は人間の関節を検出するための計算の仕方で分けられています。
ボトムアップ型
ボトムアップ型では最初にキーポイントを洗い出していくことでトップダウン型よりも計算量を抑えられる特徴があります。しかし洗い出したキーポイントと人物ごとに最適なマッチングを行うために膨大なパターンのマッチングが必要になるので時間がかかり、人物が重なる部分で誤検知しやすくマッチング精度の向上が難しい課題があるのです。
トップダウン型
しかしトップダウン型は「人物の検出」と「姿勢の推定」をそれぞれ別で行うので、画像中の人物の数に比例して計算量も増えるので計算に時間がかかる問題があります。
ボトムアップ型とトップダウン型のうち、トップダウン型は私たち人間が姿勢推定をすると考えた場合の手法と同じですよね。そしてボトムアップ型は最初に関節だけ抽出し、後で人物ごとにつなぎ合わせていくという私たち人間にはない発想で姿勢推定を行います。
このように紹介したようにどちらもメリットがあるのです。しかしデメリットもあります。しかしこれら2つの手法をもとに日々研究が進められており、トップダウン型ではDeep PoseやCascaded Pyramid Networkなど、ボトムアップ型ではDeep CutやOpen Poseなど、それぞれをもとに新たな手法が研究開発されているので今後はもっと高性能な姿勢推定技術の誕生が期待できるでしょう。
リハビリ分野におけるAI(⼈⼯知能)姿勢推定技術の事例
姿勢推定技術はさまざまな医療関連施設にも普及しリハビリでも活用され始めています。では実際に姿勢推定技術がリハビリでどのように活用されているのか紹介します。
NECの「歩行姿勢測定システム」
現在さまざまな企業からリハビリに活用できる姿勢推定技術のサービスが開発されています。それらを調べていくとそれらは身体の機能訓練で歩行状態や姿勢を把握するために活用されているようです。
では実際にNECが開発しサービス提供をしている「歩行姿勢測定システム」を例に説明していきましょう。
こうすることで利用者の現在の歩行状態や姿勢について知ることができるのです。
そして利用者の年齢と性別をシステムに入力しておくと測定結果でそれに応じた基準をもとに点数が表示されるので、その結果から自分が何歳に相当する状態なのかが分かります。
またシステムに登録しておくと測定結果を蓄積することができるので、過去から現在までのデータを比較することで身体の変化やリハビリの効果を把握しやすくなり、今後のリハビリ計画にも役立てたりも。
そしてNECの「歩行姿勢測定システム」の場合はオプションで利用者の結果に応じたトレーニングプログラムが表示される機能があり、理学療法士や柔道整復師などの専門トレーナーがいなくてもトレーニングに取り組むことが可能です。実際にこのシステムは接骨院や整骨院、そしてリハビリ特化型デイサービスなどで利用されはじめています。
姿勢推定技術がもたらすリハビリへの効果
NECの「歩行姿勢測定システム」はリハビリで姿勢推定技術どのように活用されているのかをわかりやすくするために一例として紹介しました。この他にもさまざまな企業からリハビリに活用できる姿勢推定技術のサービスが提供されています。
どのサービスも詳細に違いはあっても基本は利用者の歩行状態や姿勢を分かりやすくするために数値や映像を使って可視化しています。そして人間の歩行状態や姿勢を可視化することでいくつかのメリットが生まれているのです。
ではここで実際に「歩行姿勢測定システム」を利用している理学療法士や柔道整復師の感想を紹介しましょう。
- 柔道整復師(50代)
「歩行に現れるトレーニングの効果を、数値や視覚表現を使って利用者に分かりやすく伝えることで、改善への実感を持たせられ、トレーニングにより良くなっている変化を、利用者と同じ目線で共有できるようになった。」
- 理学療法士
「高齢者はセンサーの装着を嫌がる方がいるので、映像で分析できるのがいい。」
つまり姿勢推定技術はリハビリ自体の効果だけでなく、指導員と利用者との間の信頼も強められる効果ももたらしてくれるといえるでしょう。
リハビリ分野でのAI(⼈⼯知能)姿勢推定活⽤の今後とは
このようにさまざまな分野でAI(⼈⼯知能)の活用は普及しはじめ、リハビリでもAI(⼈⼯知能)技術のディープラーニングを応用した姿勢推定技術が広がりを見せています。
ですからこれからリハビリにおいて姿勢推定技術はますます重宝されるようになるでしょう。
なぜならすでに日本は超高齢化社会に突入しており、今後に高齢者数はどんどん増えると予測されているので、介護予防や要介護者のリハビリが増加すると考えられるからです。
超高齢化社会だからこそ活躍が期待される姿勢推定
現在介護保険を利用されている人口は2020年2月の時点で667万4415人に昇ります。そして今後要介護率が高くなる75歳以上の高齢者人口は2020年では約1646万人ですが、2025年には2179万人まで急速に増加していくでしょう。
そうなるとますます重要になるのが介護予防と要介護者のリハビリです。
介護予防は2006年の介護保険法の改正にともなって、新たに国の制度として導入されました。
ですから現在日本が突入している超高齢化社会において、これからの介護予防や要介護高齢者のリハビリで姿勢推定が活躍するでしょう。
これからの姿勢推定技術は高齢者の自立した生活を守る
ところで介護保険を利用するためには要支援か要介護の認定を受ける必要があり、その判断基準の中に要支援ではIADL(手段的日常生活動作)と、要介護はADL(日常生活動作)が判断項目に含まれています。
お気づきになられたかも知れませんが、IADLもADLもどちらも歩行が重要なポイントになっていますよね。
高齢になると病気やケガが原因で回復しても、その後車いす生活を送るようになるケースが多く見られます。その原因の中には転倒による骨折が多いようです。高齢者の転倒には筋力の低下も原因に含まれており、それによって歩行姿勢が悪くなって転倒骨折を引き起こす要因になっています。
ここまで紹介した要支援・要介護認定の判断基準と転倒の原因を見ると、人間にとって「歩ける」ことがいかに大切だということが分かりますよね。
そのため今後は高齢者への姿勢推定の実施がますます求められるようになるのではないでしょうか。
人間と AI(人工知能)によるリハビリの分業化
先ほど紹介したNECの「歩行姿勢測定システム」では歩行姿勢を数値化して可視化することにより、利用者に分かりやすく説明することができ、オプション機能にはシステムからトレーニングプログラムも表示されるようになっています。
現在の姿勢推定技術でここまでできることを考えれば、この先AI(人工知能)がもっと進化して姿勢推定に応用されるとすれば、理学療法士や柔道整復師などのリハビリ専門の仕事がなくなりそうですよね。
実際にAI(人工知能)を活用したコンビニの無人化店舗の実験もはじめられており、コンビニ店員という仕事の消滅が現実味を帯びてきました。この他にも運転手や警備員などの数多くの仕事がなくなると予想されていますが、リハビリに関してはどうでしょうか。
この研究結果ではAI(人工知能)に代替される可能性が低い100種の職業も予想されており、その中には理学療法士、柔道整復師などのリハビリに関する職業が入っています。やはり人とのコミュニケーションが重要な仕事なので無くなる可能性は低いようです。
そして現在の姿勢推定では姿勢の状態だけを測定するようになっていますが、将来は身体に潜んでいる疾患を発見できるようになるかも知れませんよね。
姿勢推定は人間の姿勢や動きを映像や画像から分析して数値化することにより、その人物の状態を分かりやすく可視化してくれる技術。
これまで人間の動きや姿勢をデータ化して捉えるためにはマーカーを装着して複数台のカメラで撮影するモーションキャプチャが主流でした。しかしAI(人工知能)技術のディープラーニングを応用した姿勢推定が登場し、カメラ1台と専用のシステムだけでコンパクトに姿勢推定が行えるようになりさまざまな分野で活用されはじめ、それはリハビリでも同じです。
そのため高齢者が転倒による骨折などで介護が必要になる生活を送ることがないように「転倒予防」と「歩行ができる」状態を維持していくことが大切であり、介護予防やリハビリはますます重要になってくるでしょう。
そこで期待されるのが姿勢推定の活躍です。
またAI(人工知能)とともに姿勢推定技術も進化を遂げていくと、将来は測定やリハビリ計画の立案はAI(人工知能)が行い、患者さんのメンタルケアを理学療法士、柔道整復師などが行う構図が予想されます。
ですから姿勢推定技術の進化が今まで以上にリハビリ効果を向上させ、高齢化が問題になる日本とって、この問題解決のために大きな役割を担い活躍してくれると良いですよね。
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