スマホや家電など、私たちの身の回りの製品へのAI(人工知能)適用が進んで、以前の生活よりも快適に過ごせることも増えてきていますよね。最近では、私たちの生活の根幹にかかわる、医療へのAI(人工知能)適用もかなり進んでいるんです!
例えば、レントゲンなどの医療画像を診断する能力については、既にAI(人工知能)が人間の医師を上回っちゃってます。また、診察で発生する大量の診療データ/医療論文などのデータ処理はAI(人工知能)の得意分野です。なんせAI(人工知能)は疲れ知らずで、しかも人間のように間違えることはありません。今後、医療へのAI(人工知能)適用が進むことにより、医師も失業する時代が来てしまうのかどうか、気になるところです。
ということで、今回は医療へのAI(人工知能)がどこまで進んだのか、適用事例3件について確認しましょう。
適用事例1:がんゲノム医療
医療へのAI(人工知能)適用事例の1件目は、がん治療への適用事例で、ゲノム(患者の全ての遺伝情報)の解析にAI(人工知能)を活用するというものです。
近年、がんの原因となっている遺伝子の解明が進み、がんの原因となっている遺伝子変異に有効な分子標的薬の活用が進んでいます。
がんを引き起こす遺伝子変異は複数のものが複雑に組み合わさっています。そのため、同じがんであっても患者一人ひとりで原因となっている遺伝子変異が異なることから、近年では患者一人ひとりの遺伝子情報に基づき、事前に治療の有効性を確認する「個別化治療」が行われています。
この「個別化治療」には以下の2種類があります。このうちの「がん遺伝子パネル検査」を使用する医療が「がんゲノム医療」と呼ばれ、AI(人工知能)を活用しています。さらに詳しくみていきましょう。
- がん遺伝子検査
1回の検査で、原則1つの遺伝子変異について検査します。検査の結果、例えばA遺伝子変異が検出された場合には、A遺伝子変異に有効な分子標的薬の使用を検討します。なお、標準治療(通常のがん治療)における遺伝子検査は、この「がん遺伝子検査」となります。
標準治療で治らないがん、原発不明がん(転移してるが最初に発生した臓器が不明)の場合に限り、次の「がん遺伝子パネル検査」(がんゲノム医療)を受けることができます。現時点では、がんゲノム医療はまだ研究、評価中の治療法なんです。
科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、一般的な患者さんに行われることが推奨されている治療です。
- がん遺伝子パネル検査(がんゲノム医療)
手術などで採取されたがんの組織を用いて、1回の検査で多数(数十~数百)の遺伝子を同時に調べます。検査の結果、遺伝子変異が検出された場合には、その遺伝子変異に有効な分子標的薬の使用を検討します。
がん遺伝子パネル検査の遺伝子検査には、次世代シークエンサーという装置を使用してゲノムを読み取ります。この装置により出力されるゲノムの量は非常に膨大(例:約2,000億文字)なため、この解析処理にAI(人工知能)が活躍する、というわけです!
適用事例としては、AI(人工知能)「KIBIT」によるゲノム解析があります。この事例は、医療向けにAI(人工知能)サービスを提供する(株)FRONTEOヘルスケアと公益財団法人がん研究会による共同研究です。
AI(人工知能)が、非常に膨大なゲノムと、これもまた非常に膨大な論文/医療情報(論文数は、がんだけで20万件/年のペースで増加)とを突き合わせて解析することにより、最適な治療法や薬剤に関する記述がある論文を短時間で抽出し、医師に提示してくれるというスグレものです。
がんゲノム医療の推進のため、厚生労働省は全国11カ所の中核病院と100カ所の連携病院を指定しました。また、今後は新たに拠点病院を追加することにより将来的には全都道府県で50施設弱とすること、更に公的保険適用についても検討されているようで、より多くのがん患者へのがんゲノム医療適用が期待されています。
適用事例2:ホワイト・ジャック
医療へのAI(人工知能)適用事例の2件目は「ブラック・ジャック」ならぬ「ホワイト・ジャック」と呼ばれる診療支援システムで、患者の予診/問診情報などを入力するとAI(人工知能)が病名候補を提示してくれるというものです。
このホワイト・ジャックは、僻地などの地域に医療を充足させる目的で設立されました。自治医科大により運営されている、AI(人工知能)を用いた総合診療支援システムで、開業医/救急外来の当直医や、他科の医師に相談できない僻地で診療をしている医師などを想定利用者としています。また、地方における若手医師の育成活性化や医師不足の地域差問題の解消も狙っています。
ホワイト・ジャックは医療論文、各医療組織の医薬情報と副作用情報および自治医大に蓄積された8000万件の診療情報などを含む医療ビッグデータを使用しており、本システムに患者の予診、問診、検査情報を入力すると、この医療ビッグデータを元にAI(人工知能)がどの疾患なのかを解析のうえ、病名候補を確率の高い順に示してくれます。それと同時に必要な検査や処方まで電子カルテに表示して、医師の診断や診療をサポートまでしてくれます。
また、病名候補には確率が低くても見落としてはならない危険な病名も含まれています。これには経験豊かな総合診療医の知識が反映されており、経験の少ない医師の見落とし軽減を狙っています。これは安心な機能ですよね。
なお、最終診断の責任は医師が負うもの、という考えから最終診断を示す機能はあえて持っていません。AI(人工知能)が診断や治療方針を行うのではなく、あくまで医師による医療活動をAI(人工知能)が支援する役割にとどめています。
適用事例3:医療画像診断
医療へのAI(人工知能)適用事例の最後は、すでに人間の能力を超えたと言われている医療画像診断です。AI(人工知能)による医療画像診断の性能向上の背景には、撮影技術と医療機器の進歩により増え続ける医療画像に対し、確認する医師の数が圧倒的に不足しているという切実な問題がありました。以下では医療画像診断事例として3点ご紹介します。
- エンライティック(米国):悪性腫瘍検知ソリューション
ディープラーニングを用いたがんの画像診断分野では先駆的なベンチャー企業である米エンライティックはX線、CT(コンピュータ断層検査)、MRI(核磁気共鳴画像法)などの画像データを読み込み、がんをはじめとする悪性腫瘍を検知するソリューションを2014年より提供しています。解析精度は放射線科医の検出率を約5割も上回るとされています。
- スタンフォード大学研究グループ(米国):皮膚がん診断
米スタンフォード大学の研究グループは、米グーグルが開発したアルゴリズムを応用し、ネットから約13万件の皮膚病変の画像を収集、メラノーマ(悪性黒色腫)、「良性腫瘍」などをディープラーニングで学習させることにより、皮膚科医と同等精度での皮膚がん診断が可能となりました。
- DeepMind(英国):眼疾患の診断システム
イギリスの人工知能企業であるDeepMindが、英国の眼科病院と共同でAI(人工知能)を用いた眼疾患の診断システムを開発し、世界最高レベルの眼科医と同等かそれ以上の成績を残すことができました。医学誌「Nature Medicine」に掲載された論文によると、OCT(光干渉断層計)画像を使って学習したAI(人工知能)は、50種以上の目の疾患を94.5パーセントの精度で判断可能で、診断対象には緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性(AMD)などの眼疾患があります。
以上、今回は医療へのAI(人工知能)がどこまで進んだのか?適用事例3件について確認しました。医療のような専門知識を必要とする業務にAI(人工知能)は極めて有能であることがわかりますよね。
- 適用事例1:がんゲノム医療
(株)FRONTEOヘルスケアのAI(人工知能)「KIBIT」によるゲノム解析により、最適な治療法や薬剤に関する記述がある論文を短時間で抽出し医師に提示することができます。
- 適用事例2:総合診療支援システム
ホワイト・ジャックに患者の予診、問診、検査情報などを入力するとAI(人工知能)が病名候補を示すと共に、必要な検査や処方までを電子カルテに表示して医師の診断や診療をサポートします。また、病名候補には確率が低くても見落としてはならない危険な病名も含まれています。
- 適用事例3:医療画像診断
既に人間の能力を超えたと言われている医療画像診断事例として、エンライティック社による悪性腫瘍検知ソリューション、スタンフォード大学研究グループによる皮膚がん診断、DeepMind社による眼疾患の診断システムについてご紹介しました。
今回ご紹介したようなビッグデータ解析(がんゲノム医療)、医療ビッグデータ活用(ホワイト・ジャック)および医療画像診断は今後AI(人工知能)に代替される可能性が高いと考えられています。
しかしながら、医療とは病気を治すだけというような単純なものではありません。患者が病気と向き合うための手助けをしたり、病気や治療の納得度を高めることも医師の重要な仕事です。「症状を和らげてほしい」「とにかく話を聞いてほしい」といった患者の不安な気持に対し、患者の立場になって対応することは、今のところ人間の医師でなければできません。
今後、医療へのAI(人工知能)適用が進むことにより医師の作業効率が向上し、その結果、医師の問診技術や身体診察の技量、患者との信頼関係構築スキルの向上が期待できることから、医師および患者双方にとってはすばらしい未来になるのではないでしょうか。