現在最も注目されているテクノロジーであるAI(人工知能)の適用分野の一つに画像認識があります。画像認識技術の一つである顔認証システムは、iPhoneのFace IDで使用されたことから、広く世の中に知られるようになりましたよね。
画像認識技術を活用することにより、画像データから「特徴」を抽出し、「何の画像であるか」を判別することができます。このため、今まで人間の眼でしか判断できなかった作業を、AI(人工知能)が代行できるようになりました。
実は、画像認識技術はAI(人工知能)技術の中で、社会への適用が今後最も進むと予想されている技術であり、既に様々なサービスへの適用が進められています。
例えば、インテリア販売大手の(株)ニトリが提供する商品画像検索サービスでは、自分で撮影した家具の写真あるいはSNS上で見つけた家具の写真を使って商品検索を行うことができます。
自分の欲しい家具の特徴をテキストで表現する、なんて面倒なことしなくても、画像検索であれば直感的に欲しい商品を見つけることができて、とっても便利ですよね。
ということで、今回は画像認識技術が、今後の私たちの社会や生活にもたらす影響について一緒に考えてみましょう。
それではまず最初に、現在のAI(人工知能)による画像認識の能力が一体どの程度のものなのか確認しましょう。
既に人類の目を遥かに超えたAI(人工知能)の画像認識能力
画像認識技術は、AI(人工知能)という用語が生まれた1950年代において既に存在していた古い技術なのですが、ディープラーニングおよびビッグデータの登場により2010年代以降、画像認識の精度は飛躍的な向上を遂げることになります。
(参考)ディープラーニングおよびビッグデータについてはこちら。
2017年に行われたAI(人工知能)によるレントゲン医療画像の判定能力に関する研究の結果、AI(人工知能)の判定能力が経験を積んだ人間の医師を大きく上回っていることが判明していました。
AI(人工知能)は、膨大な数のがん細胞および正常な細胞画像より学習した「がん細胞の特徴」により瞬時(0.3~0.4秒)に判定することができます。しかも、人間の医師が疲労により集中力や判断力が低下しまうのに対し、AI(人工知能)は365日×24時間、正確な判定が可能です。
ただし、このことから医療画像判定という仕事がAI(人工知能)に奪われてしまう、と考えるべきではないでしょう。
むしろ、医療画像判定はもともと人間には向いていない、コンピュータに任せるべき作業だったのです。近年、技術的課題がクリアできたので、ようやく任せることができるようになった、と考えるべきでしょう。
人間の医師には患者の精神的ケアや治療方針の判断など、もっと重要な役割がありますよね。
なお、医療シーン以外にもAI(人工知能)は様々な領域で私たち人間の能力を超えた画像認識能力により大きな成果を出しています。
次に、製造業および農業への適用事例についてご紹介します。
画像認識技術のおかげでこんなに便利に!適用事例2件
製造業:工場における不良品除去
マヨネーズでおなじみの食品メーカー、キユーピー(株)はジャムやパスタなどの加工食品も手がけています。
加工食品の一つであるベビーフードに含まれる、1センチ角のダイスポテトの不良品除去作業にAI(人工知能)の画像認識処理が採用されています。
キユーピーの取り組みがユニークなのは、不良品ではなく、良品のダイスポテトの画像データ1万枚を学習させて、そのデータから外れるものを不良品として除去する仕組みを構築した点にあります。
農業:効率的な農薬散布
農家にとって、害虫対策に使用すべき農薬散布量の判断はとても非常に厄介な問題です。
農薬散布量が少ないと害虫被害により生産量が低下してしまう一方で、近年の消費者のオーガニック志向を無視することもできません。
ソフトウェア開発の(株)オプティムが提供する「ピンポイント農薬散布テクノロジー」は、ドローンで撮影した田畑の映像をAI(人工知能)の画像認識処理により解析し害虫の位置を特定、ドローンによる農薬のピンポイント散布により、農薬使用量の90%削減を実現しています。
それでは次に、今後適用が増えると予想される、ちょっとユニークな活用事例について確認しましょう。
今後、画像認識技術の適用が期待されるサービスとは
ここでは、私たちの日々の消費活動に関連するサービスとして「マーケティング」への適用事例についてご紹介します。
マーケティングをザックリと表現すると「商品が売れる仕組みづくり」となります。今後は、画像認識技術をマーケティング活動に役立てる取り組みが、急速に進んでゆくことが予想されます。
SNSへの投稿写真を解析することにより消費者ニーズを理解する!
メーカーにとって、消費者による自社製品の様々な利用シーンを把握することは、消費者ニーズを理解するうえでは欠かすことのできない作業です。
AI(人工知能)を活用したコンサルティングを提供する(株)プレインパッドは、飲料メーカーをターゲットにした、SNSへの投稿写真を活用した消費シーン解析サービスを提供しています。
具体的には、特定ブランドのドリンクが写った画像をSNS投稿写真より抽出し、その写真に写っている人物の行動と表情、季節と場所、一緒に食べている料理などを解析することにより、消費者がそのドリンクをどのような生活シーンで楽しんでいるのか、について理解を深めることができます。(例:コカ・コーラとペットと自宅、という組み合わせの写真が多い、など)
SNS上に投稿されている写真は、投稿者が好きなモノや楽しいと感じた画像であふれています。SNSはマーケティング担当者にとって、まさに検討材料の宝庫!今後、SNSの画像解析サービスは多くの企業で広く活用されるかもしれません。
レジなし店舗に設置されたカメラが顧客の嗜好(好み)を理解する!
Amazon Goなどの「レジなし店舗」といえば、無人店舗をイメージしてしまいますが、実はレジなし店舗の狙いは店員をゼロにすることではありません。
確かに「行列」のない快適な買い物を楽しめるのはレジなし店舗のメリットですが、本当の狙いは店舗内に設置された多数のカメラで顧客の行動を徹底追跡することにより、顧客の嗜好(好み)を把握することにあります。
例えば、カメラはあなたがサンドイッチを選ぶ際に栄養成分表示シールを熟読すること、スイーツコーナーで必ず立ち止まること、また、画像認識技術によりあなたが思わず手に取った商品が何なのか、など、店内におけるあなたのすべての行動を追跡記録します。
そしてAI(人工知能)があなたのすべての行動を解析、あなたの嗜好(好み)を理解することにより、あなたお気に入りの店舗をつくりあげるのです。
AI(人工知能)が導き出した「理想の店舗」の実現に向けて、店員は食品の調理や商品入れ替えなどを担う裏方として、むしろ欠かせない存在になるでしょう。
さて、ここまで画像認識技術の適用事例を見てきましたが、AI(人工知能)の「眼」の能力の高さと、その疲れを知らない働きぶりには驚くばかりですよね。はたして、AI(人工知能)の「眼」はすべての点で、私たちの「眼」を超えてしまったのでしょうか。
実は、AI(人工知能)の「眼」にも弱みはあるんです。それでは次に、現在のAI(人工知能)の「眼」の弱みについて確認しましょう。
現在の画像認識技術が苦手なこと、対応できないこと
充分な学習データが準備できない場合の画像認識は苦手です
冒頭でご紹介したがん細胞の画像などのように、数万~数十万枚と非常に多い件数とはいえ、がん細胞の特徴をほぼ網羅できる学習データが準備できる場合であれば、AI(人工知能)は極めて高い精度で画像認識できます。
一方で、例えば、テーブルクロスにおける食べ残しのシミのように、どれだけ大量の学習データをそろえても、シミの特徴を網羅することが困難な場合、画像認識の精度はそれほど高くありません。
なぜなら食べ残しのシミの形状、大きさや色合いは、一つとして同じものはなく、組み合わせのパターンは無限にあるため、AI(人工知能)がシミの特徴を抽出することは極めて難しいのです。人間であれば5歳の子供でもテーブルクロスのシミなのか模様なのか一目で判断できるのに、AI(人工知能)の「眼」にとって難易度の高い作業だなんて、なんとも不思議な感じがしますよね。
私たち人間とAI(人工知能)とでは、モノを見て判断する仕組みが、実は大きく異なっているのかもしれませんね。
AI(人工知能)は画像を見ても「何も」感じることはできません
AI(人工知能)は素晴らしい景色を見た(読み込んだ)とき、私たちのように美しいと感じたり、感動したりすることはありません。また、悲惨な事故や戦争の写真を見ても、怒りや悲しみを感じることもありません。
つまり、現在のAI(人工知能)は、画像を学習内容と比較したうえで、どれだけ似ているかを「確率」で示すことはできますが、私たちのように画像の意味を理解したり、いろいろと考えさせられたりする、といったことはないのです。
一枚の写真が社会を動かすことだってありますからね。う〜ん、これでは現在のAI(人工知能)は、まだ「見えている」とは言えないですよね。
私たちが美しいと感じる理由の一つとして、今までの何百万年にわたって積み重ねてきた、人類が生き残るために必要な「知識」にもとづき、映像の中に対称性、黄金比、フラクタルパターンなどを無意識に見つけたときに「美しい」と感じる、とも言われています。
私たちが美しいと感じることが、実は、私たちの遠い祖先から引き継がれた「知識」によって引き起こされるのであれば、AI(人工知能)だって同じような「知識」を学習することができれば、私たちと同じように、美しいと感じたりできるようになるかもしれません。
先にご紹介した、食べ残しのシミの判別が困難なのも、現在のAI(人工知能)の学習方法に課題があるとも言われています。今後の学習方法の進歩により、遠い将来のAI(人工知能)は、私たちを遥かに超えた画像認識能力に加えて、人間と同じように「見える」ようになっているかもしれませんね。
それでは最後に、そんな未来の一シーンをちょっと覗いてみましょう。
20xx年xx月xx日、A氏の日記より
本日、久しぶりに佐藤と飲んだ。以前会ったのが昨年末だから約半年ぶりということになる。
近況について会話している中で、最近、たまたま同じ映画を見ていたことが分かって、かなり盛り上がってしまった。ラストのどんでん返しについて、佐藤は途中で気がついた、なんて言っていたが、本当だろうか?あれはちょっと信じられない。俺には全くわからなかった。
あと、意外だったのが、犯行に至るまでの犯人の心情について、とても良くわかる、泣けた、と佐藤が言ったことだ。
佐藤が、実は我々とは「違う」ことについては、かなり以前より佐藤の同僚に教えてもらっていた。人間ではない佐藤が、あの犯人の心情についてはたして本当に理解できるのか?
そこらへんが気になったので、かなり突っ込んで聞いてみたのだが、結局、彼が本当に理解できていたのかどうかまでは分からなかった。こちらの質問に対する応答から、我々と同じように理解できているようにも聞こえたが、うまく会話を合わせているだけのようにも思えてしまい、実際に彼がどのように感じていたのか、までは理解できなかった。
ところで、帰り際に佐藤が変なことを言った。
なるだけ近いうちに脳の検査を受けてみてはどうか、なんて言ったのだ。
どうやら「彼ら」には我々には見えないモノが見えるらしいこと、またアドバイスに従った結果、早期発見できて助かったなんて話も、いくつか聞いたことがある。
確かに会話している間、俺の額のあたりを佐藤が何度か見つめていたのは気になっていた。
ここは素直にアドバイスに従うことにしようと思う。
なお、これも噂で聞いた話だが、「彼ら」は手遅れの状態が見えてしまった場合には、たとえ見えたとしても教えてくれないらしい。
本当だろうか。
以上、今回は画像認識技術が、今後の私たちの社会や生活にもたらす影響について一緒に考えてみました。
- 既に人類の目を遥かに超えたAI(人工知能)の画像認識能力
AI(人工知能)によるレントゲン医療画像の判定能力に関する研究結果では、AI(人工知能)が経験を積んだ人間の医師を大きく上回っていることが判明しています。 - 画像認識技術のおかげでこんなに便利に!適用事例2件
1)キユーピー(株)は、ベビーフードに含まれる、1センチ角のダイスポテトの不良品除去作業にAI(人工知能)の画像認識処理を活用しています。
2)(株)オプティムが提供する「ピンポイント農薬散布テクノロジー」は、ドローンによる農薬のピンポイント散布により、農薬使用量の90%削減を実現しています。 - 今後、画像認識技術の適用が期待されるサービス
今後は、画像認識技術をマーケティング活動に役立てる取り組みが、急速に進んでゆくことが予想されます。
1)SNSへの投稿写真を解析することにより消費者ニーズについて理解を深めることができます
2)レジなし店舗に設置されたカメラにより顧客の嗜好(好み)について理解を深めることができます - 現在の画像認識技術が苦手なこと、対応できないこと
1)充分な学習データが準備できない場合の画像認識は苦手です
2)AI(人工知能)は画像を見ても「何も」感じることはできません
ただし、今後の学習方法の進歩により、遠い将来のAI(人工知能)は私たちを遥かに超えた画像認識能力に加えて、人間と同じように「見える」ようになっているかもしれません。
画像認識技術は今回ご紹介した事例以外にも、防犯対策や自動運転など、様々な分野への活用が見込まれています。
今後の学習方法の進歩により、現在の弱点を克服したAI(人工知能)が仕事上だけでなく、私生活においても、私たちの良き友あるいはパートナーになってくれる日が来ることを期待しましょう。