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アマゾンがAIで世界制覇を目指す。小売業の未来のカタチとは?

アマゾンがAIで世界制覇を目指す。小売業の未来のカタチとは?

本や日用雑貨から食料品の購入まで、アマゾンは今や私たちの生活に欠かせない存在になりましたよね。アマゾンの2018年(1~12月)の全世界売上は前年に対して実にプラス5.5兆円(前年比131%)の23.3兆円(そのうちの日本市場は1.5兆円)とまさに絶好調なんです!

地域別に見ると、小売業の衰退が深刻化しているアメリカ合衆国における伸びが著しく、なんと前年プラス約4兆円にもなっています。

(参考)アメリカ合衆国における小売業の衰退

アメリカ合衆国における小売業の衰退は2016年より発生しており、2017年だけで約7,000軒の実店舗が閉鎖に追い込まれたという、極めて深刻な状況にあります。ちなみに、2019年に計画されている店舗の閉鎖は5,300ヶ所以上とも言われています。これらの衰退は、アマゾンなどのオンラインショッピング浸透も原因の一つと言われていますが、加えて以下の2点が実店舗運営における課題として指摘されています。

  • 消費者は「モノ」よりもSNS上で話題になりやすい「体験」を購入する傾向にある
  • 不況で消費が落ち込んでいるにも関わらず小売業者が過剰出店してしまった(バブル崩壊)

一方でアマゾンは莫大な売上や時価総額(約96兆円。小売業世界一位のウォルマートの約3倍!)より巨額の研究開発費を投入することにより、AI(人工知能)や未来の物流システムについての改善を愚直に繰り返しています。

(参考)アマゾンの2017年の研究開発費

日本の防衛費の約半分の2.5兆円でIT企業のトップ。

ということで、今回は、AI(人工知能)で世界制覇を目指すアマゾンと小売業の未来のカタチについて一緒に考えてみましょう。まず最初に、アマゾンがなぜここまで強くなれたのか、その秘密について見てみます。

長い年月をかけて誰にも真似できないシステムを構築

ECコマース基盤のイメージ

アマゾンは1994年の創業当初より、儲け度外視の経営を続けてきました。とにかく利益よりも未来への投資を重要視しており、1997年に株式公開した際にも創業者のベゾスは赤字であること、さらに今後も損失が出続ける可能性が高いことを明言しており、当時以下のようにも述べています。

「利益は出ていません。出そうと思えば出せますけどね。利益を出すのは簡単です。同時に愚かなことでもあります。我々は今、利益になったはずのものを事業の未来に再投資しているのです。」

これはどういうことなのかというと、低価格と低収益により多数の顧客の獲得を実現し、ライバルの参入を困難なものにする、というのがベゾスの戦略です。アップルのジョブズの戦略(高価格と高収益はライバルの参入を容易にしてしまう)とは逆の立場をとっています。

この「低価格と低収益により多数の顧客を獲得」を実現し、ライバルの参入を困難なものにするため、アマゾンは長い年月をかけて誰にも真似できないシステムを構築してきました。その中から3点ご紹介します

Amazon Robotics

AmazonRoboticsのイメージ

アマゾンが開発を進めている、ロボットを活用した物流システムです。
従来、作業員が倉庫内を歩いて商品を集めていた作業を、ロボットに対応させることにより、作業員は移動することなく梱包作業を行うことができるようになりました。

現時点ではロボットの認識技術が商品一点ごとの取り出しまで対応できていないため、棚ごとの移動をロボット、棚から商品を取り出し梱包する作業を人間が対応していますが、将来は全ての作業をロボットが対応することになるかもしれません。

アマゾンは配送時間短縮のため、Amazon Roboticsの機能を持つ倉庫を多数構築しています。倉庫構築には土地代など莫大な費用がかかりますが、配送時間短縮のためにあえてそのような投資を行うのです。

一般的な経営者の思考は「どうしたら最小の投資で最大の利益が得られるだろうか?」ですが、ベゾスは違います。「莫大な投資が必要なため他社にはできないことで、我々が他社を出し抜けるものは何か?」と考えるのです。

物流システムという非常に地味な機能ですが、アマゾンは毎年莫大な資金を投入し愚直に改善を繰り返し続けており、他社には真似のできない強力な武器になっています。

AWS(Amazon Web Service)

クラウドコンピューティングのイメージ

AWSとは、アマゾンが提供するクラウドコンピューティングです。AWSが提供する各種サービスを組み合わせることにより、サーバーなどのハードウェアや、データベースやアプリケーションなどのソフトウェアを購入することなく、あなたが必要とするシステムを構築することができます。しかも、料金は前払い不要で使った分だけ支払う従量課金制となっています。

現在、AWS市場においてアマゾン以外にもMicorosoft(Azure)、Google(CloudPlatform)、IBM(Bluemix)などがサービス提供していますが、AWSのシェアは33%前後と、2位で同13%前後のMicorsoftやその他を大きく引き離しています。

もともと、このAWSで提供しているアプリケーションは、アマゾン自身が社内で開発し使用していたシステム(例:通販事業の連絡先管理のために開発したツール)を顧客に提供しているものです。

ここで重要なポイントは、社内システムを顧客に提供することにより、顧客からのフィードバックを得ることができるため、アマゾン社内の事業パフォーマンス(社内システムの品質)の向上実現にも役立てることができる点です。(AWSに対する顧客評価が低い→アマゾン社内事業パフォーマンスも低いと判断)

アマゾンは他社がクラウドコンピューティングの将来性に気がついていない2006年よりAWSに着手、その後、顧客要望に対して愚直に対応し続けたこと、また、過去に50回以上もの値下げを実施したことにより、現在ではアマゾンの営業利益の40%を稼ぎ出すほどの事業に成長しています。

FBA(Fulfillment By Amazon)

FBAのイメージ

FBAとは、出品者(アマゾンのWeサイトにおいて商品を販売する業者)向けのサービスで、提供するサービス内容は、商品の在庫管理、梱包、発送、顧客データ管理、返品対応、クレーム対応、決済処理です。

出品者はアマゾンに対し売りたい商品を送付するだけで、在庫管理や発送、クレーム対応などの面倒な作業を全てアマゾンが対応してくれるという、とても便利なサービスです。しかもアマゾンのブランドで集客できるのも大きなメリットですよね。(出品者による商品をアマゾンで注文する際には「この商品は、”出品者”が販売し、Amazon.co.jpが発送します。」と表示されます)アマゾンはFBAにより、商品ラインナップの幅を格段に広げることができました

なお、アマゾンは何らかの配送トラブル発生時の出品者への賠償金支払いにも対応しています。FBAは扱う処理件数の多さから、配送トラブルも膨大な件数となりますが、こういったコスト負担にも無期限で対応する、また対応できるだけの「体力」を持つライバルは極めて少ないでしょう。

以上、アマゾンの強みの秘密について見て来ましたが、短期的な利益を追求するのではなく、10年あるいは20年先の遠い未来の利益を追求するアマゾンには誰も対抗できないのでは?と思ってしまいますよね。

さて、次は今後のアマゾンのAI(人工知能)に対する取り組みと、小売業の未来のカタチについて考えてみましょう。

アマゾンのAI(人工知能)の未来に対する取り組み

AIの未来のイメージ

先に書きましたが、アマゾンはAI(人工知能)の未来に対して大きな投資を続けています。ここでは、AI(人工知能)の未来に関する取り組みについて2点ご紹介します。

アレクサ

アレクサのイメージ

アマゾンが提供するスマートスピーカーで、「アレクサ」と話しかけるだけで、音楽を聴いたり、天気予報、ニュース、受信メール、銀行口座残高、株価などを音声で確認することができます。

アレクサにはアマゾンで販売している商品を音声で注文できる機能がありますが、アマゾンは現状の全てのクリック注文を、アレクサによるクリックなし注文へ移行したいと考えているようです

あなたがアレクサへの注文を繰り返すことにより、アレクサはあなたの購買履歴を蓄積し、あなたからの音声注文がなくても必要性を理解し、あなたに代わって注文してくれるようになるかもしれません。
例えば、歯磨き粉、シャンプー、洗剤などの過去の注文履歴よりアレクサが自動的に注文し補充してくれるようになるかもしれません。ベゾスは今後のアレクサの進化について以下のように述べています。

「Alexaの開発に取り組む研究者数は2倍に増えた。その成果は明らかで、例えば問いの内容を理解して答える能力が20%以上向上している。また、何十億ものデータが入力され、Alexaが持つ知識はより一層豊富なものとなった。より多くの成果と利便性を提供するために、今後もさらに研究開発を進めるつもりである」

実店舗への進出

Amazon Goのイメージ

歯磨き粉やシャンプーを自動補填してくれるのはうれしいけれど、私たちは実店舗でいろんな商品を見たいし、触れてみたいですよね。

実はアマゾンも実店舗の必要性については理解しており、2017年に米・大手スーパーのホールフーズを買収しています。全米で数百店舗を持つホールフーズを手に入れることにより、実店舗の運営についての試行を既に開始しているんです。

なお、消費者が商品を購入するパターンとしては、既に購入することを決めている「計画購買」と、購入を決めていなかったものの実店舗で商品を見て触れてみて気に入り購入に至る「非計画購買」の2種類がありますが、実際の買い物の約8割は「非計画購買」と言われており、「非計画購買」を喚起できる(何が欲しいのかを私たちに気付かせてくれる)点が実店舗の強みとも言われています

とはいうものの、現時点では実店舗の活用については、アマゾンもまだ様子見の状況と言われており、実際の計画が実行されるまでには、まだまだかなりの時間がかかるようです。

もう一つのアマゾンの実店舗への進出として、Amazon Go(レジなし無人コンビニ)があります。2017年のテスト店舗を経て、2018年1月に米・シアトルにオープンしました。

Amazon Goの利用方法は、スマホアプリが表示するQRコードをゲートにかざして読み取らせて入店した後は、必要な商品を手に取り、そのままゲートを通って店を出るだけです。

仕組みとしては、店舗内に複数設置されたカメラ(約4,900台)と棚に設置されたセンサーにより収集したデータをAI(人工知能)が解析することにより、誰がどの商品を購入したかを判断します。一度手に取った商品を棚に戻せばキャンセルと認識されます。

なお、現時点ではAmazon Go店舗にはコンビニ程度の店舗面積に数十人の従業員が必要という、まだまだ試行錯誤の段階で、今後は従業員の削減および店舗運営全体(発注、商品管理、人員配置など)へのAI(人工知能)適用までにはまだまだ時間がかかりそうな状況です

ということで、アマゾンのAI(人工知能)の未来に対する取り組みについて確認しました。
商品を見たり触れたりできる楽しみや、「非計画購買」を喚起できる実店舗の強みもあるため、今後はネットと実店舗それぞれが商品特性によって役割を担うことになるでしょう。なお、ネットにおいては音声注文(クリックなし注文)が主流になり、コンビニやスーパーにおいてはレジの無人化が進むと予想されています。

Amazonスマホアプリのイメージ

以上、今回は、AI(人工知能)で世界制覇を目指すアマゾンと小売業の未来のカタチについて一緒に考えてみました。

アマゾンがなぜここまで強くなれたのか、その秘密について確認しました

アマゾンは創業以来、未来への投資を繰り返すことにより、誰にも真似できないシステムを構築してきました。

  • Amazon Robotics:ロボットを活用した物流システム
  • AWS:シェアは33%前後を誇り、営業利益の40%を稼ぎ出すほどの事業に成長
  • FBA:出品者向けのサービスで、在庫管理や発送、クレーム対応などの面倒な作業を全て対応

アマゾンのAI(人工知能)の未来に対する取り組みについて確認しました

今後はネットと実店舗それぞれが商品特性によって役割を担い、レジの無人化が進むものと思われます。

  • アレクサ:現状の全てのクリック注文のクリックなし注文への移行を狙っています
  • 実店舗への進出:買収により得た実店舗とAmazon Goについて検証中

今やネット販売では敵なしのアマゾンですが、その強さゆえの問題指摘もあります。
アマゾンはその強さにより、毎年76,000人の失業者(小売市場における店主、レジ係り、販売係など)を生み出していると言われています。さらに今後、AI(人工知能)やロボット開発を進めることにより、アマゾン社員含めて失業者をさらに増やしてゆくことも予想されています。

雇用破壊について問われた際、ベゾスは最低限所得補償制度の採用検討、そうでなければ全ての国民に貧困ラインを上回るだけの現金を支給すべきと発言しています。
彼にとっては、ロボットで代行できる労働者は不要で、いずれアマゾンの社員の殆がエンジニアのみとなってしまうかもしれません。

ところで、過去100年間で農業技術の進歩(トラクターなどの機械化、農薬、品種改良など)により、農業従事者の人口割合が50%から4%に減少したのと同じ現象が、今後小売業でも起こるという指摘があります

今後、AI(人工知能)技術の進歩により、私たちは小売業の大きな転換点を経験することになるかもしれませんが、これは何もベゾスのせいでもなく、AI(人工知能)などの技術革新による避けられない未来なのかもしれませんね

その場合には、ベゾスが言うように最低限所得補償制度で対応するのではなく、農業がそうであったように、他産業への労働者シフトにより対処されることを期待したいものです。

 

参照元
一般社団法人リテールAI研究会編「リアル店舗の逆襲」(日経BP社)[Amazon Goのカメラ数について]
スコット・ギャロウェイ「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」(東洋経済新聞社)[アマゾンによる失業者数、農業従事者の減少について]

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