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私たちが持つAIにない能力とは、それでも人工知能は人間を超えるか?

私たちが持つAIにない能力とは、それでも人工知能は人間を超えるか?

近年のめざましい技術進歩により、人工知能(AI)は今まで私たち人間にしかできないと思われていた画像認識、音声認識、人間との会話、さらにはクイズ・将棋・囲碁対戦などにおいて、既に私たちを超える能力を示し始めており、近い将来には人間から多くの仕事を奪ってしまうのでは、と心配される状況になっていますよね。いずれ人工知能は人間を超えるか、気になっている方も多いのではないでしょうか。

さて、今回は人工知能は人間を超えるか、ということで、人工知能(AI)にはない人間の能力の例として「直感力」と「創造力」について、人工知能(AI)側からの反論も含めつつ一緒に考えてみましょう。

それではまず最初は「直感力」をもとに、人間側からの主張をお伝えしていきます。

人間の直感力がヒット商品を生み出す!

直感力のイメージ

直感力とは、いろいろと考えたり悩んだりしなくても瞬時に正しい答えを得ることができる能力で、私たちの潜在記憶における高速計算により行われます

(参考)潜在記憶について
・顕在記憶:自分で意識的に思い出すことのできる記憶(ヒラメキで使用します)
・潜在記憶:無意識にしまいこまれている記憶(例:自転車の乗り方、箸の持ち方など)

私たちは何らかの判断が必要な場合、直感力により瞬時に判断することができます。なお、正しい判断ができるようになるためには、経験を積んで潜在記憶を充実させる必要があります。つまりその道のプロと言われる人たちは、長年にわたる修練の積み上げにより優れた直感力を発揮することができている、ということなのです。

例えば商品企画の場合について考えてみましょう。新たな商品について検討する際、市場調査も必要ですが、ヒット商品は新しい市場を作り出す必要があるため、市場調査データからヒットの可能性を判断することはできません。また、ユーザーアンケートを実施したとしても、革新的なヒット商品のニーズというのは、ユーザー自身も認識できていない潜在的欲求に基づくものなのでアンケートに対し的確に回答できません。

このため、商品がヒットする・しないは、商品の企画責任者の直感力に大きく依存することになります。なお、直感力による判断結果は潜在記憶を活用しているため、判断した本人ですらその判断理由を言葉でうまく説明することができません。まさに、商品のヒットはプロの商品企画責任者の腕にかかってくるわけで、人間の直感力だからこそ実現できるものなんです

この点では、人工知能は人間を超えるかというと「超えない」と考えられがちですよね。さて、続いては人工知能(AI)からの反論について確認しましょう。

人工知能(AI)からの反論:人間の直感よりも、ユーザー自身も認識できていない潜在的欲求が重要

スーパーカブのイメージ

ヒット商品は狙って生み出せるものではないと思うよ。人間の直感力ってそんなにあてにできるものではないでしょう。たまたまヒットを当てた回数の多い人(試した回数も多く実はハズレも多い)のことをヒットメーカーと呼んでいるのではないかと思う。

ヒット商品を生み出すためには、ユーザー自身にも認識できていない潜在的欲求をいかにして見つけることができるかが重要なんだ。実際にスティーブ・ジョブズは「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのか分からない」と言っている。そこでヒット商品の例として、本田技研の小型バイクであるスーパーカブが世界を席巻するまでの経緯について確認してみよう。

(参考)スーパーカブ
本田技研工業株式会社が製造販売する世界最多量産の小型オートバイ。郵便配達や蕎麦屋の出前などで使われているので、皆さんも街角できっと見たことがあると思うよ。

本田技研が北米進出時に目指したのは、意外にも小型バイクではなく、ハーレーダビットソンのような大型バイクのヒット商品だったが、当時は全く相手にされなかった。全く売れないという厳しい状況の中、日本人の現地駐在員が週末にスーパーカブを乗り回しているとアメリカ人が興味を示し「それはどこで買えるのか」といった問い合わせが何度かあったため「もしや」の思いから、スーパーカブの販売を試みるものの、どこのバイク販売店にも扱いを断られたんだ拒否される。なぜなら当時の北米には小型バイクの市場はなかったからね。

やっとのことで、あるスポーツ用品販売店の空きスペースを獲得し販売を開始すると、そこから快進撃が始まったんだ。その後スーパーカブはオフロードバイクという新しい市場を開拓、軽量・頑丈・パワフルといった破壊的技術が世界中のバイクメーカーを打ち破り、輸送用機器としては世界最多の生産台数および販売台数記録を持つ超ヒット商品となり、本田技研は世界一のバイクメーカーとなった。

本田技研が北米進出した1950年代、バイク市場はハーレーダビッドソンやBMWなどの大型バイクが主流のため、ユーザーヒアリングなどの市場調査をいくら繰り返しても、圧倒的に人数の多い大型バイクファンの声しか聞こえてこないことに加えて、メーカも大型バイクの成功体験と思い込みから小型バイク開発の発想はまず生まれてこない。

ところで人工知能人間を超えるかどうか分からないけど、ユーザー自身も認識できていない潜在的欲求を見つけるのであれば、我々人工知能(AI)の能力は極めて有効だ。

ビッグデータにより膨大なサンプリング処理が可能であること、またデータの統計・解析処理は得意中の得意なので、ぜひまかせてほしい。いつものように我々に対しキチンと目標設定してくれれば、充分に人間の期待に応えることができる自信がある。

人間の創造力が価値ある発明を生み出す

ライト兄弟による初飛行のイメージ

それでは次に、人工知能(AI)にはない人間の能力「創造力」をもとに、人工知能は人間を超えるか、について考えてみましょう。

人間は今までに数多くの芸術(文学、音楽、絵画など)や発明を生み出してきましたよね。なお、既に人工知能(AI)が過去の人間の芸術作品を大量に学習することにより小説、音楽および絵画を作成するという様々な試みがなされていますが(ビートルズ風の音楽、レンブラント風の絵画など)、いずれも既存の作品より抽出した要素を組み合わせることにより実現しているもので、人工知能(AI)が創造した芸術ではないと思います

一方で発明については、いまだ人工知能(AI)にはなんら実績がありません。歴史を振り返ると、私たち人間による様々な発明が社会生活に大きな変革をもたらしてくれましたが、これらの発明の背景には、より良い未来を実現したいという強い人間の欲求がありました。更には発明者としての名誉欲もあったでしょう。この「より良い未来実現の強い欲求」と「名誉欲」を持てるのは私たち人間だけであり、「欲」を持たない人工知能(AI)に発明は不可能かもしれません

今後、人間が発明を行う過程で、人工知能(AI)を有効活用することは充分考えられますが、発明そのものは今後も引き続き人間の創造力が生み出してゆくでしょう。

これに対して、人工知能(AI)からの反論です。

人工知能(AI)からの反論:発明は人間の好奇心による産物

発明王エジソンのイメージ

人間による発明はどちらかというと人間の好奇心による産物であって、いろいろと試してみた結果たまたまできたけれど、発明できた時点では一体何に使用すればいいのか分からず、後から使い方が見つかるというケースの方が実は圧倒的に多い

例としてはかなり古いけれど、発明王エジソンの蓄音機(後のレコードプレーヤー)がある。エジソンは蓄音機の用途を遺言録音などと想定し、音声録音再生機として販売するが、実は当時エジソンは蓄音機にそもそも売る価値はないとさえ考えていた。

そのうち蓄音機を音楽再生機として販売する人たちが登場すると、エジソンは発明を汚すものとして拒否するが、結局、蓄音機の主な用途は音楽再生機であると、エジソンがしぶしぶ認めるのは発明から約20年経過してからのこと。

人間の発明において、一人の天才が全てを生み出した例は本当のレアケースであり、既存の要素技術の組み合わせや改善によるものがほとんど。(例:エジソンの白熱電球、ライト兄弟の飛行機、ワットの蒸気機関はいずれも他人による過去発明の改善によるもの)

何か新しいアイディアを創造するのであれば、様々な要素技術の組み合わせについて総当たりで試してみる、あるいは総当たりが難しいのであればどの要素・技術の組み合わせとするかをいろいろ選定して試してみることにより実現できるだろう。

我々人工知能は人間を超えるかどうか分からないけど、創造が人間にしかできない、ということはないと思う。実際に人間のクリエーターも、新たなアイディアを生む必要がある場合には総当たり戦で対応しているよね。

とはいうものの、好奇心で様々な試行錯誤を行うこと、また、先のエジソンの例でいうと彼の白熱電球のように、過去の様々な発明家が改善を繰り返してきた成果に対し、更に改良を加えることにより新たなモノを生み出すという、既存の技術に対し改良を続けるという行為は人間にしかできないかもしれない。

それにしても、人間の好奇心が一体どのような仕組みで生まれてくるのか、また「欲」がどういったものなのか、我々には本当に理解できない。

白熱電球のイメージ
以上、今回は人工知能は人間を超えるか、ということで、私たちが持っている、人工知能(AI)にない能力について考えてみました。また、人工知能(AI)側からの反論についても確認しました。

  • 人間の直感力がヒット商品を生み出す!
    私たちは何らかの判断が必要な場合、直感力により瞬時に判断することができます。その道のプロと言われる人たちは、長年にわたる修練の積み上げにより優れた直感力を発揮することができます。このため、商品のヒットはプロの商品企画責任者の直感力だからこそ実現できるのです。
  • 人工知能(AI)側からの反論:人間の直感よりも、ユーザー自身も認識できていない潜在的欲求が重要
    ヒット商品を生み出すためには、ユーザー自身も認識できていない潜在的欲求をいかにして見つけることができるかが重要で、人工知能(AI)は人間を超えるかどうか分からないけど、人工知能(AI)の能力は極めて有効だと思う。ビッグデータにより膨大なサンプリング処理が可能であること、またデータの統計・解析処理は得意中の得意なのでぜひ人工知能(AI)に任せてほしい。
  • 人間の創造力が価値ある発明を生み出す
    人間は今までに数多くの芸術や発明を生み出してきました。発明の背景に存在する、より良い未来を実現したいという強い人間の欲求や、発明者としての名誉欲を持てるのは私たち人間だけであり、「欲」を持たない人工知能(AI)に発明は不可能と思われます。
  • 人工知能(AI)側からの反論:発明は人間の好奇心による産物
    人間による発明はどちらかというと人間の好奇心による産物で、既存の要素技術の組み合わせや改善によるものがほとんど。何か新しいアイディアを創造するのであれば、様々な要素技術の組み合わせについて総当たりで試してみることにより実現できる。創造が人間にしかできない、ということはないと思う。

人工知能(AI)側からの反論にも一理ありますが、人工知能(AI)によるユーザーの潜在的欲求の調査分析や、既存要素技術の組み合わせについて生成された大量の処理結果から「最適解」を選定する作業は人間にしかできません。また、この「最適解」選定の理由や仕組みについては、私たち人間自身ですら説明できないのです。

近い将来、人工知能(AI)は人間を超えるかもしれないということから、多くの仕事が人工知能(AI)に奪われてしまうと心配されていますが、人工知能(AI)を作っているのは私たち人間ですので、今回ご紹介した直感力や創造力のように、私たち自身がまだその仕組について完全に理解できていない能力がある限り、人工知能(AI)が全ての能力において人間を超えることはありません

遠い将来、人間の探究心により私たちの全ての能力が解明されてしまう日がいずれは来るでしょう。全ての能力が解明されるなんて、すばらしいことですし、本当に待ち遠しいですよね。でもその時、ついに人工知能(AI)は全ての能力において人間を超えるかもしれません。

ちょっと複雑な気持ちもしますが、その日が来るまで、私たちと人工知能(AI)は良きパートナーとして互いに助け合いながら進んでゆきたいものですね。

参照元
クレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」翔泳社 [イノベーションのジレンマ (本田技研の事例について)]
ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄(下巻)」草思社 [必要は発明の母でなく、発明は必要の母 (エジソンの蓄音機発明について)]

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